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移り行くアニメ脚本家の役割 過去、原作は改変されるのが一般的だった

現在、TVアニメは年間300本以上が制作されています。なかでもライトノベルやコミックスを原作とするアニメは非常に多く、しばしば高い人気を獲得します。かつては原作を元にしたオリジナル展開を行う作品も見られましたが、近年は原作に忠実な内容の作品が増えて来ています。そのため、脚本家の役割も以前とは変化してきているようです。

かつてのアニメ化では原作は改変されるのが一般的だった

原作に忠実なアニメ化が高い評価を得た『鬼滅の刃』 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
原作に忠実なアニメ化が高い評価を得た『鬼滅の刃』 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

「脚本家」という言葉にどんなイメージをお持ちでしょうか。おそらく多くの方々は「作品のストーリーを生みだす重要なポジションだ」と考えておられるのではないでしょうか。視聴者をワクワクさせるような展開、登場するキャラクターの魂が込められたセリフの数々を紡ぎあげるのが脚本家の役割だと。

 TVドラマで辣腕を振るう三谷幸喜氏や宮藤官九郎氏のように、配役にまで大きな影響を与える役職だと感じている方もいるでしょう。この考えは決して間違いではありません。ただ、三谷氏や宮藤氏はかなり特別な存在で、多くの脚本家には配役に関与するような力はまずありません。むしろさまざまな理由により、簡単に首を挿げ替えられてしまうこともあるポジションなのです。

 特に、昔からアニメを見ている方であれば、最近は原作に忠実な作品が増えたと感じているのではないでしょうか。今から15年ほど前までの原作付きのアニメを制作する場合は改変するのが当たり前で、原作にはない展開を楽しんだり、「ここ原作と違いすぎない?」と首を傾げたりした経験を持つ方も多いでしょう。

 なぜ原作は改変されてしまったのでしょうか。まず大きな理由としては、原作とアニメでは媒体が違うため、表現技法が異なることが挙げられます。しばしばアニメ化される原作媒体としてはライトノベルとコミックスが存在しますが、ライトノベルはテキスト、コミックスは絵で表現されています。それに対し、アニメは動画と音声で構成されているため、原作をそのまま表現するのは難しい場合があるのです。

 例えば、数万人規模の大軍同士を激突させる場合、テキストの場合はそれほどの手間はかかりません。しかしアニメにした場合は膨大な数の人や装備を描かなければならず、制作リソースを食いつぶしてしまうため、非常に描写が難しくなってしまいます。

 また、アニメを制作するスタッフはクリエイターなので、どうしても自分の内側にあるものを表現したいという気持ちがあります。そこで原作物を制作する際に改変を行う例がしばしば見られ、原作側とあつれきを生むこともありました。

『魔法先生ネギま!』がアニメ制作における大きな転機に

 アニメ化の際には原作を改変するのが当たり前だった状況に、大きな変化が見られたのが、2008年です。

 この年に発売されたOAD(オリジナル・アニメーション・ディスク)『魔法先生ネギま!~白き翼 ALA ALBA~』は、完全に原作の内容に乗っ取った形で制作されました。『魔法先生ネギま!』は2005年と2006年にアニメ化されていましたが、どちらも内容は原作から大きく改変されており、特に一期は熱心なファンから多くの失望の声が聞かれる内容だったのです。色々と事情は耳にしていますが、少なくとも現場で作品と向き合ったスタッフにほとんど責任はないことだけは記しておきます。

 このとき起用された脚本家たちは元々書籍の編集者であり、文章の編纂に長けた方々でした。その後も『化物語』をはじめとする『物語』シリーズや『ソードアート・オンライン』などの人気作を続けて手掛け、アニメも大ヒット。ファンが「原作を忠実に再現したアニメ」を求めていたことが明らかになりました。そして今では原作の改変は減少し、仮に行われたとしてもクリエイターの我ではなく、必要に応じてというパターンが多数となっていったのです。

 原作に忠実な脚本づくりを行う場合、脚本家はどのような役割を果たしているのかという疑問を持つ方もいるかもしれません。この場合、脚本家は原作サイドや監督、プロデューサーなどから出てくる要望や意見の調整を行い、原作のどの部分をクローズアップするのかという調整役を果たすことになります。このあたりはオリジナル作品でも同様ですが、脚本家が自らの意志でストーリーを書くわけではないという点が異なります。要望を取り入れたうえで、表現手法が異なるライトノベルやコミックスの内容を、アニメの設計図としての脚本に落とし込む仕事をしていると考えると分かりやすいでしょう。創作者と言うよりも、翻訳家の作業に近いのかもしれません。

 また、2019年に放送された『鬼滅の刃』では、脚本としてクレジットされたのは制作会社であるufotableであり、個人名は記されておりません。これはまだ一般的な例とは言えませんが、原作のストーリーやセリフを可能な限りそのまま使い、スタッフは演出手法を集団で考える仕組みになっているのであれば、個人としての脚本家名は不要と判断した可能性もあります。

 求められる作品の形が変化し、脚本家が果たす役割も変わってきているというのがここ10年ほどの流れとなっているように思えます。メディアミックスの関係上オリジナル作品の企画は通りにくく、原作付きアニメの重要性は増すばかりです。原作をどうアニメ化していくのか、これからもさまざまな形が試されていくのではないでしょうか。

(ライター 早川清一朗)

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