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TVアニメ版『無限列車編』放送開始! 視聴率至上主義からコンテンツ尊重へ

牛鍋弁当に夢中になる煉獄杏寿郎

 テレビ業界では、3か月を1クールと呼び、1クール単位でスポンサーや制作会社と契約することが基本となっています。そのため多くのTVドラマやアニメ作品は、1クール(10話~13話)や2クール(20話~26話)の放送となっています。今回のフジテレビがTVアニメ版「無限列車編」を10月~11月に全7話で編成したのは、かなり柔軟な対応だったことが分かります。

 1980年代~90年代のフジテレビは、新感覚のバラエティー番組や若手俳優を起用したオシャレなトレンディードラマで人気を博し、視聴率トップを独走しました。2000年代には『踊る大捜査線』『海猿 ウミザル』『HERO』などのTVドラマの劇場版を大ヒットさせ、存在感を示してきました。しかし、2010年代以降は業績が低迷した状態が続いています。バブル期には時代に同調していたフジテレビ社員の気質と、現在の若い視聴者たちとの間に大きな隔たりが生じていることも、低迷の要因となっています。

 炭治郎をはじめとする『鬼滅の刃』のメインキャラクターたちの生活は、大正時代という設定もありますが、極めて質素です。山で育った伊之助が初めて食べた天ぷらに感激している様子は、とても印象的でした。煉獄杏寿郎の好物は、さつまいもの味噌汁。お弁当のおかずであれば鯛の塩焼き、さつまいもご飯です。列車に乗った杏寿郎が、「うまい! うまい!」と牛鍋弁当を夢中になって食べている姿は、微笑ましくもありました。

 鬼たちと戦い、生きるか死ぬかのギリギリの境地をサバイバルする炭治郎は、慎ましい生活のなかで善逸や伊之助らと友情を育み、杏寿郎から剣士としての生き様を学ぶことになります。そんな炭治郎のまっすぐな生き方が、バブル崩壊以降の「失われた時代」を生きる世代の心に響いたように思います。

アニメ業界にとって長年の問題

 全7話というミニシリーズ構成となるTVアニメ版「無限列車編」が成功すれば、第2期「遊郭編」にうまくバトンタッチできる上に、いろんな可能性も生まれるのではないでしょうか。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開時に配布された入場者特典の「煉獄零巻」には、杏寿郎の「鬼殺隊」の隊士としての初任務が描かれていました。『鬼滅の刃 外伝』では、杏寿郎の継子だった甘露寺蜜璃とのエピソードが語られています。杏寿郎人気が10月~11月放送のTVアニメ版でも証明されれば、スピンオフコミックのアニメ化も検討されるかもしれません。

 視聴率トップを走っていた過去のイメージから脱却できず、低迷が続いていたフジテレビですが、『鬼滅の刃』のこれまでの一連の放送ではオリジナルのコンテンツを尊重し、ファンの声にも耳を傾ける姿勢を見せています。『鬼滅の刃』をきっかけに、フジテレビが「視聴率至上主義」を掲げてきたテレビ業界の慣習に囚われずに、新しい番組編成や番組づくりに舵を切ってくれることを期待したいものです。長い目で見れば、よいコンテンツを視聴者に届けることが、テレビ局にとっても制作サイドにとってもベストのはずですから。

 ちなみに1963年に日本初の連続TVアニメ『鉄腕アトム』を放送開始したのも、フジテレビでした。『鉄腕アトム』を制作した虫プロは、海外での放映権や関連グッズの売り上げで制作費の赤字をカバーしたそうですが、アニメーターたちの制作環境が劣悪で、賃金がずっと抑えられてきたことは長年の課題となっています。この機会にアニメ業界の構造的問題も、解決に向かうことを願います。

※煉獄の「煉」は「火+東」が正しい表記

(長野辰次)

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