伝説の書籍『怪獣図解入門』 子供たちの理解を考え抜いた作者の「功罪」とは
昭和平成と時代をまたいで読み継がれている『怪獣図解入門』。いったいどんな内容だったのでしょうか。作者である大伴昌司先生にも触れつつ、懐かしい記憶を掘り起こしていきましょう。
少年たちの想像力をかき立てまくる! 怪獣博士が遺した伝説の本

怪獣の“中身”ってどうなっているんだろう。
そんな少年たちの知的好奇心を満たしてくれた伝説の本が『怪獣図解入門』(著:大伴昌司)です。1972(昭和47)年、第二次怪獣ブームのさなかに刊行された同書は初代『ウルトラマン』から『ウルトラマンA』までに登場した怪獣・超獣の体の仕組みを美麗なイラストで図解してくれる夢のような本としてベストセラーになりました。
さらに2008年には新装版も刊行されており、昭和から平成と世代を超えて愛されています。この記事では、いったいこの『怪獣図解入門』の何がそんなに魅力的だったのか、また著者である元祖怪獣博士・大伴昌司先生の“功罪”についても解説いたします。
●ジャミラの脳みそってそんな形?なぜか納得してしまうペン画の説得力

怪獣はかならずしも巨大化した恐竜などではありません。火炎や吹雪を吐く超生物であり、その中身がどうなっているのかは非常に気になるところ。
『怪獣図解入門』はそんな子供たちの願いを実にダイナミックな手法で叶えてくれました。怪獣たちの体の内部構造を細やかなペン画(画:山屋魔秀美)で、まるで実際の解剖図のように解説してくれているのです。
例えばバルタン星人ならハサミのなかに赤い袋状の器官が描かれ「冷凍液ぶくろ 赤い冷凍光線を放ち、すべてをかためる」といった解説が添えられています。
カネゴンはしっかりとコインの真贋を区別できる「腸」があり、ゼットンには1兆度の炎を作ることのできる「点火液ぶくろ」があります。またもともと人間だったはずのジャミラの脳みそは両肩いっぱいに広がっており、怪獣によってかなり自由な解釈がされていることがわかります。
生物としてのリアリティを無理に追求せず、ファンが「そうこなくっちゃ!」と思わせる図説が想像力を刺激してくれたのです。
●なぜ急に!具体的すぎる解説文が記憶に刻み込まれる

「オレンジジュースで鉄筋コンクリートのビルを作るようなもの。」
この一文を読んだ瞬間、忍者怪獣サータンの解説がフラッシュバックしたなら、あなたは『怪獣図解入門』を相当読み込んだ方です。
同書には随所にこうした具体的すぎる説明文が散りばめられています。例えば「クジラを5秒でダウンさせる猛毒」(ムルチの牙)「ジャイアント馬場の20万倍」(ゴモラの腕力)などなど、のちのポケモン図鑑への影響をも感じさせる名文がずらり。比較対象も子供にわかりやすいように設定してくれていることがよくわかります。
●「ゴモラ目」直球すぎるネーミングが心に深々と刺さる!

『怪獣図解入門』の印象を二倍も三倍も強めてくれているのが、怪獣たちの内臓や器官のネーミングでしょう。
例えば大人気怪獣ゴモラの肺の名称は「ゴモラ肺」、目は「ゴモラ目」、つのは「ゴモラつの」という、迷いを感じない直球勝負。多少なりとも凝りたくなりそうなところですが、何よりも子供にわかりやすくしてくれていたのでしょう。
なお「重力あらしぶくろ」(バルタン星人)、「ブラック宇宙液ぶくろ」(ブラックキング)、「油ぶくろ」(レッドキング)と何かと「〇〇ぶくろ」が多いのも特徴です。バルタン星人にいたっては前述以外に「バルタンくさり液ぶくろ」「においぶくろ」「白色エネルギーぶくろ」と5つも内蔵されています。
●著者・大伴先生は、伝説の欠番エピソードに関わってしまい…

『怪獣図解入門』の魅力はまだまだあるのですが、著者である大伴昌司先生のことにも触れなくてはならないでしょう。
怪獣博士の異名を持つ大伴先生は、怪獣はもちろんカルチャー全般に対して幅広いな知識を持ち、翻訳、雑誌編集、映画研究など実に多岐にわたる活躍をされていました。画家のエッシャーを広く日本に紹介したのも大伴先生です。
戦後日本のカルチャーを担う多くの巨匠たちに影響を与えた大伴先生ですが、『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」の欠番を決定づけた「被爆星人」というスペル星人の肩書きを考案したのもまた彼でした。この肩書のせいで、未だに同エピソードの封印は解けていません。そして大伴先生ご自身は1973年に36歳という若さでこの世を去ってしまうのです。奇しくも『怪獣図解入門』が刊行された翌年のことでした。
ご存命ならきっと平成以降のウルトラ怪獣の図解も描いてくださっていたはず。「ゴルザ胃」「ガンQ目」「ワロガ毒液ぶくろ」……などなど、大伴先生のネーミングをうっかり空想してしまうと、時間がさかのぼるような感覚がします。
(片野)