声優・野沢雅子の偉業 共演者が「勘弁して」と訴えたスゴ技とは?
誰もが認める匠の技は「待った」がかかるほど…

野沢さんが自身で演じて思い出深いキャラに挙げているひとりが、『銀河鉄道999』(1978~1981年)の星野鉄郎です。鉄郎に感情移入しすぎて、ゲスト声優さんがメーテル役の池田昌子さんと親しそうに話していると嫉妬したというエピソードがあるほど役に入り込んでいました。
そして、誰もが思い浮かべるほどの有名キャラと言えば、やはり『ドラゴンボール』(1986~1989年)の孫悟空でしょう。息子の孫悟飯、孫悟天を含めて、野沢さんの印象深いキャラ3人のうちのひとりに挙げていました。若い世代の方は特に野沢さんイコール孫一家というイメージが強いかと思います。
このひとりで何役も演じるというのは、脇役ならありえますがメインキャラとなるとあまり例がなく、しかも役同士の掛け合いもできるところがスゴいところ。例えば劇場版アニメ『ドラゴンボールZ 地球まるごと超決戦』(1990年)では、悟空、悟飯、ゲスト悪役のターレスの3役を野沢さんが演じています。この物語では脚本家があえてこの3人の掛け合いを増やしたのに、野沢さんが難なく演じきって驚いたというエピソードもありました。
ちなみにこういった別キャラの掛け合いは通常は別撮りと言って、それぞれ録音するのが普通。ところがバラエティ番組などで見せるように、野沢さんは難なく複数の掛け合いを演じきってしまうそうです。この「一本撮り」と呼ばれる技術は同業者やスタッフも驚くほど。しかしある時、後輩から「一本撮り」をすると他の声優もできるものと思われるので勘弁してほしいと訴えられたそうです。それ以降、野沢さんも現場では「一本撮り」を控えるようになったそうです。
この悟空関連のキャラはとにかくバリエーションが多く、2017年に『ドラゴンボール』のゲームに関してふたつのギネス認定がされました。ひとつは「ひとつのビデオゲームのキャラクターを最も長い期間演じた声優」。もうひとつは「ビデオゲームの声優として活動した最も長い期間」です。その期間は認定当時で23年218日。これは『ドラゴンボール』のゲームが販売されるたびに更新されていくことでしょう。
筆者が個人的に思うのが、おそらく日本アニメで一番主演を務めていた期間が長い声優が野沢さんのような気がします。もちろん細かいカウントの仕方があるでしょうから、ギネス記録になるかは分かりません。しかし、それほどのキャリアと実績の持ち主であることは間違いないでしょう。
アニメファンの多くが物心ついたころから、第一線で活躍している野沢さん。これからも元気なお声を聞かせていただければ幸いです。
(加々美利治)