ウルトラ怪獣の「死に様」は変わりゆく 昭和時代はスパスパ刻まれていたが…?
最近の特撮は昔より描写がマイルドだと言われて久しいですが、2021年7月から始まった『ウルトラマントリガー』では久しぶりに人形爆破の演出が行われ、SNSが大いに賑わいました。そんな時代とともに変わりゆくウルトラ怪獣たちの「死に様」の変化を追ってみましょう。
派手な「死に様」にかわって台頭してきたものとは?
2021年7月から放送がスタートし、最新話が放送されるたびにSNSなどで話題になる『ウルトラマントリガー』ですが、第1話の放送時にTwitterのトレンド入りを果たしたのが「人形爆破」という言葉でした。
第1話では怪獣ゴルバーがトリガーの光線を受け、見事に(カポック人形が)砕け散ったことを受け「令和に人形爆破(カポック演出)が観れるなんて」とファンが相次いで投稿したのです。決して物騒な遊びが流行したわけではありません。
裏を返せば、特撮作品を長年見てきた人にとって「人形爆破」が珍しいものになってしまったと言うことができます。実際、最後にTVのウルトラシリーズで同じ演出が行われたのは『ウルトラマンメビウス』(2006年)であり、およそ15年ぶりだったのです。
今回は、昭和から令和にかけてウルトラシリーズにおける怪獣の「死に様」がどのように変遷していったのか、その軌跡をたどっていきたいと思います。
●平成に入る前から「自主規制」は始まっていた?
ウルトラシリーズに親しんだ人なら、昭和の怪獣(超獣)たちの「死に様」がいかにエキサイティングだったか、よくご存知でしょう。バルタン星人は真っ二つ、エレキングは首と尻尾を切断、ベムスターはほぼ食用加工され、サボテンダーはくす玉に……。怪獣だけでなく、ウルトラ戦士たちの首がはねられることもありましたし、『ウルトラマンレオ』(1974年放送)に至っては人間が怪獣の餌食になってしまう描写もあります。
こう説明すると昭和時代は自主規制などない自由な世界だったかのように思われますが、どうやらそれも違うようです。昭和最後の実写テレビシリーズ『ウルトラマン80』に登場する怪獣たちの「死に様」はというと、光線をくらえばズウンと倒れておしまい……なんてことがしばしば。ダメージ表現が『レオ』以前と比べ格段にマイルドになっているのです。
当時、メディアの暴力表現がたびたびPTAの槍玉に挙げられており、『80』にも厳しい監視の目が向けられる事態になっていたという背景があります。実際、とあるPTA会報誌では怪獣が何発殴り、ヒーローが何発殴り返したかを仔細にまとめていた……なんて話もあったのです。ウルトラシリーズにおける暴力表現の自主規制が平成を待たずに始まっていたことは特筆すべき点かもしれません。
●平成以降は「粉砕爆破」を活用?
さて、平成シリーズ第1作『ウルトラマンティガ』(1996年放送)の「怪獣の死に様」はどうだったのでしょうか。じつは、冒頭でご紹介した「人形爆破」も健在で、さらに16話では怪獣・宿那鬼の首を切断する場面もありました。実質、これが最後の首切断となりました。
また、明確に「怪獣保護」のコンセプトを打ち出した『ウルトラマンコスモス』(2001年放送)では、怪獣の「死に様」を見る機会自体が激減しますが、仕留めるときは人形爆破の演出が頻繁に用いられています。
この「粉砕爆破」は部位切断と比べて、とやかく言われにくい瀬戸際の演出だったのかもしれません。そもそもなぜ過去のウルトラ怪獣の「死に様」が派手だったかといえば、憎き怪獣を倒した「実感」をビジュアルインパクトで視聴者に伝えるためであり、それ以外の要素で十二分に満足を与えることができれば、わざわざ危ない橋を渡る必要もなくなったのでしょう。
●令和は「闘い様」の魅せ方が大進化
続いて、令和に視点を移しましょう。2020年放送の『ウルトラマンZ』では、怪獣たちの「死に様」は合成爆発がほとんどで「首切断」はもちろんのこと「人形爆破」もありません。しかし『Z』は毎週トレンド入りを果たし、一大旋風を巻き起こしました。
それを支えていたのは「死に様」ではなく「闘い様」であったことは間違いありません。田口清隆監督率いる製作陣が織りなす見事なカット割、度肝を抜くようなパース、まばたきする暇もない長回し……怪獣の魅せ方を知り尽くした製作陣によって『Z』は大成功を収めました。
それは「死に様」の比重がはっきりと変わったことを意味します。とはいえ、今の製作陣もまた派手な死に様を観て育った世代なので、隙あらば派手な切断、爆散を今後のウルトラシリーズに取り入れてくるのではないかと、少しだけ期待してしまいます。
(片野)