ジャンプの女性主人公のルーツを探ると、武論尊と車田正美にたどり着く? 意外な共通点も
少年マンガ誌の代表格「週刊少年ジャンプ」で、女性が主人公のマンガはいつから存在したのでしょうか? 1968年の創刊から調べたところ、ふたりのレジェンド級ジャンプ作家にたどり着いたのです。
「男」車田正美と「バイオレンス」武論尊のデビュー作は女の子!?
週刊少年ジャンプの「女性が主役の作品」をいくつ挙げられるでしょうか? 近年なら『約束のネバーランド』、それから『シェイプアップ乱』『めだかボックス』、古くは『キャッツ・アイ』などありますが、実はジャンプはほかのマンガ雑誌と比べても女性が主人公の作品が非常に少ないのです。
おそらく都市伝説でしょうが、1968年の創刊間もない頃に「『少年』と付いているのに女性が主役の漫画は変」という投稿があって、男臭い作風オンリーにしたという話もあります。
そこで今回は、「ジャンプ初の女性主人公のマンガは何か?」を創刊時まで遡って紹介します。ただし、連載されていても10話と続かず打ち切りになっている、あるいは読切作品は対象外とします。また、現在連載中の『僕とロボコ』のロボコ、『Dr.スランプ』のアラレ、『ストップ!!?ひばりくん!』のひばり(男だけど)など、本来の主人公よりヒロインが目立っているような作品も対象外としました。
まず有名な『キャッツ・アイ』の連載が1981年からなので、それ以前の作品を遡ってみると、意外な作者が女性主人公のマンガを描いていたのです。
●『スケ番あらし』車田正美(1974~75年)
『聖闘士星矢』『リングにかけろ』などのヒット作で知られる車田正美先生のデビュー作。連載当時のオイルショックの影響で紙量が制限されたことから、初回、2回目が読切でスタートし、翌年から本格連載で25話続きました。
内容は「男勝りで喧嘩っ早い主人公・荒神山麗が通う学校に、容姿端麗の財閥娘、綾小路静香が転校してくる。静香は周囲の人間を金で言いなりにさせる女で、ピュアで昔気質の麗と対立、さまざまなバトルが展開される」という物語。
主人公は女性ですが、内容は男と男の闘争を女に置き換えたものです。もちろん、コメディ要素やお色気シーンもたくさん入っています。当時のマンガに登場する女性は男に寄り添う可愛いヒロインばかりだったので、若い女子学生どうしが闘うという設定はかなりのインパクトがあったようです。読んでみると、車田先生が後に描く男らしい世界観の片鱗がうかがえます。
●『クライムスィーパー』(1973年)『ピンク!パンチ!雅』(1974年) 原作:武論尊 作画:逆井五郎
さて1974年あたりを探すと、女性が主役のマンガがもう1作ヒットしました。原作はなんと『北斗の拳』の武論尊先生です。
73年に連載が開始された『クライムスィーパー』(第1部)が休載を経てタイトルを変え、『ピンク!パンチ!雅』(第2部)としてスタート。単行本化は1~2部合わせて『ピンク!パンチ!雅』のタイトルで全2巻で出版されています。
その内容は、日本政府の秘密平和維持機関「クライムスィーパー」に所属する17歳の美少女戦士、三条雅が日本と世界の平和を守るため、国際的犯罪組織「ブラッククイーン」を相手に戦うアクション作品です。
本宮ひろ志先生のアシスタントをしていた武論尊先生は本作の原作を担当し、連載デビュー作となりました。この『ピンク!パンチ!雅』が、ジャンプ史上初の単行本化されている女主人公作品だと思われます。『ピンク!パンチ!雅』の人気はあまり上がらず、連載は1年程度で終了しますが、武論尊先生はその翌週から出世作となる『ドーベルマン刑事』の連載をスタートさせました。そして、そのバイオレンスな作風が、のちの『北斗の拳』へつながっていくわけです。
●『キーガール』篠原とおる(1971年)
さらに歴史を遡ると、連載のみで単行本化されていない『キーガール』がありました。『ピンク!パンチ!雅』より前の1971年に連載されていた女性主人公のマンガです。筆者は読んではいないため、「おジョウ」と呼ばれるオンナ錠前破りの主人公が数々の事件・トラブルに巻き込まれる……というさわり部分の内容しか分かりませんでした。おジョウはセクシーなデザインで、お色気シーンもたくさんあったとか。
篠原とおる先生といえば、実写映画化もされた『さそり』や『O課の女』などで知られる女性アクションマンガのパイオニアです。20話連載されており、おそらくジャンプ最初の女性主人公作品だと思われますが、なぜかコミック化されていない幻のマンガです。
今回紹介した3作品は、一番男らしい作品が多かった初期のジャンプで連載されていたためか、女性主人公でも男っぽい職業だったり、アクションがハードだったりと、ジャンプらしいイズムを感じます。
今後ジャンプに登場するマンガでは、どんな女性主人公が出てくるのでしょうか?
(石原久稔)