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「ぼうけんのしょが消える」って何が起きていたの? リセットボタンを押していた理由

どうして「ぼうけんのしょ」は消えてしまったのでしょうか? 何となく「内蔵電池」が関連していることは知っている人は多いはず。この記事では具体的な仕組みについて平易に解説します。

「おきのどくですが…」涙の理由を今こそ解き明かす!

『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(画像は同作のAndroidアプリ版)  (C)1988, 2014 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved
『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(画像は同作のAndroidアプリ版)  (C)1988, 2014 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved

 かつてテレビゲームに夢中になっていた子供たちは同時に「セーブデータの守り人」でもありました。現在の10代、下手すれば20代前半の方々には通じない話になりつつありますが、ファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)ソフトに保存されたセーブデータはろうそくの火ほどにやわなものだったのです。

 その代表例が「ドラゴンクエスト」シリーズにおける「ぼうけんのしょ」でしょう。このセーブシステムは『III』で実装されました。死の旋律とともに「おきのどくですが……」とセーブデータの消失を宣告されたとき、多くの勇者たちが人目をはばからずに慟哭し、家族を困惑させました。時は昭和から平成、そして令和に移り、今はほとんどのゲームがオートセーブ方式となっており、悲劇の再生産は食い止められています。

 さてかつての「勇者」たちも今は立派な大人。今こそ答えあわせの時です。果たして「ぼうけんのしょ」が消えたとき、カセットの中で何が起きていたのでしょうか。そしてなぜセーブデータはあんなにもはかなく散っていったのでしょうか。ある意味、これが本当に最後にやり残したクエストなのかもしれません。専門家による知見を適宜参考にしつつ解説します。

●なんとなく「電池のバッテリーがどうのこうの」は知っているが…

 こうした疑問に対して「ソフト内の内蔵電池のバッテリーが切れたから」という、ふんわりした情報でお茶を濁してきた方も多いのではないでしょうか。筆者もそのうちのひとりです。正直のところ、何を言っているのかさっぱり分っていませんでした。長年の疑問を解消すべく、改めてファミコンにおける「セーブ」の仕組みをおさらいしましょう。

 そもそも発売当初のファミコンは「セーブ」という概念がありませんでした。『ドラクエ』といった長期にわたって遊べるソフトを予定していなかったのです。それゆえ『ドラクエ』も『II』までは入力認証式の「ふっかつのじゅもん」が採用されていました。

 1987年に『森田将棋』がファミコン用ソフトでは初となるセーブ可能なゲームとして登場。このとき採ったのが「バッテリーバックアップ」という方法でした。「バッテリーバックアップ」とはソフト内にあるSRAMと呼ばれる記録メディアに電気を供給し続け、データを維持する方法のこと。このSRAMは電気を失うとデータを消失してしまう一時的なもの。そこで活躍するのが内蔵電池(バッテリー!)です。この電池がSRAMに電気を供給し続けることで「ぼうけんのしょ」は延命されていたのです。しかし「電池」には必ず寿命がきます。やがて電池が切れてしまうと……「おきのどくですが……」となったのです。このメッセージが表示されるたび「自覚があるなら何とかしてくれよ!」と胸ぐらをつかみたくなる気持ちになっていたのですが、事情が分かった今ようやく振り上げた拳を下ろすことができました。なお懸命なファミコンプレイヤーはこのシステムを理解していたためメーカーに電池を定期的に交換してもらっていたようです。

●なんで「りせっとぼたんをおしながら」だったの?

「ぼうけんのしょ」が消えてしまうもうひとつの理由に、コンピュータの頭脳であり制御装置であるCPUの誤作動が挙げられます。電源を切った際、急にCPUの電圧が下がることで前述の記録メディアSRAMを破損させてしまう恐れがあったのです。この誤作動をおさえるために行っていたのが「リセットボタンを押しながら電源を消す」でした。リセットボタンを押している最中はCPUの動作が停止するので、データの破損を防ぐことができた、というわけだったのです。

「ぼうけんのしょ」はなぜ消えてしまったのか。その答えは調べてみると実にシンプルでした。あの時流した涙の真相を今さら知ったところで心象にセピア色が差すだけかもしれませんが、製作陣の企業努力と創意工夫の軌跡を感じ取ることはできました。なお今からソフトのバッテリー交換をする際は、自力ではなくプロにお願いすることを強くお勧めします。

(片野)

【画像】「おきのどくですが」冒険の書のトラウマが残るタイトル

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