『サザエさん』のサイコパスは堀川くんだけじゃない? 急浮上する「第ニの男」
今や日本を代表する「サイコパスキャラ」に成長した『サザエさん』の堀川くんですが、もうひとり、『サザエさん』には重要なサイコパス男が存在しています。
「サイコパス」という言葉があてはまる人物は?
日本のアニメを代表するサイコパス的キャラクターといえば誰でしょうか。サイコパスの定義はさておき、少なくともここ数年アニメ『サザエさん』に登場するワカメのクラスメイト、堀川くんがその名をほしいままにしていることは多くの方がご存知でしょう。
メスのひよこに「わかめ」と名付けて「ひよこのわかめが卵を産んだら、真っ先に人間のワカメちゃんに食べてもらいます」などと発言したり、壁にできたシミを弟として扱ったりと、どうにも心配な奇行が絶えない堀川くん。世間がイメージする「サイコパス」を体現したかのようなキャラクターに成長しています。
そんななか「いや彼こそが真のサイコパスではないか」と噂されている男がいます。その男こそ、波野ノリスケに他なりません。波平の甥っ子で、サザエ、カツオ、ワカメのいとこにあたるお気楽編集者であることはご存知の通りです。
彼もまた、自らの目的を果たすためなら他人の迷惑を顧みず、時にモラルを職場に置き忘れたかのような振る舞いをすることで知られています。有名なエピソードを振り返りつつ、サイコパス度合いを検証していきましょう。
磯野家をドトールかネットカフェか何かだと勘違いしている節があるノリスケは、伊佐坂先生の原稿があがるまで、さも当然のごとく上がりこんでは茶の間に転がり、ついにはいびきをかき始めます。会社組織に必要以上に縛られていない古きよきサラリーマンの鷹揚さを感じ取ることもできますが、令和の感覚からいえばまったく厄介の一言です。
そんな彼がお茶の間を唖然とさせたのが、2016年3月6日放送の「ジェラちゃんとノリスケ」の回。例のごとく磯野家で休憩していたノリスケはおもむろに起き上がると、勝手に冷蔵庫を物色。ジェラートを発見した彼は、かの有名な「磯野家には似合わない物が入っているな」の名セリフをつぶやくと、すっかり平らげてひと寝入り。
果たして、楽しみにしていたタラちゃんがギャン泣きする事態に発展します。さすがのやりたい放題ぶりにSNSでは「今さらながら」の大炎上となりました。なおこの件に関して、脚本担当の雪室俊一さんは原作からそこまでキャラクター設定は外れていないとの見解を示していらっしゃいます。
こうしてみると、確かにノリスケは全くもって厚かましい、図々しいキャラクターであることは間違いないのですが、堀川くんの言動と比して「サイコパス」的かと言われれば疑問に感じる方も少なくないでしょう。ノリスケは口のうまい世渡り上手であり、公式サイトにも「ちゃっかりしているところがありますが、憎めないタイプで何かと得をして生きています」とあります。やはり『サザエさん』ワールドのサイコパスキャラは堀川くん一強なのでしょうか。
ここで改めて「サイコパス」について簡単ながら整理してみましょう。中野信子『サイコパス』(文春新書)では、サイコパスの定義が難しいことは大前提としつつ、「サイコパシー傾向が強い人」(=サイコパス)の特徴として「人当たりは良いが、他者に対する共感性そのものが低い」「傲慢で尊大であり、批判されても折れない、懲りない」「常習的にウソをつき、話を盛る」「お世辞がうまい人ころがし」などを挙げています。また面長より顔が横に広い方がその傾向が強い……などという研究も同書で紹介されています。もちろん、あくまでも「傾向」の話です。
堀川くんは頓狂な少年ですが、傲慢でも尊大でも、またお世辞のうまい人ころがしでもありません。また彼はどちらかといえば面長です。つまり、あくまでも彼は世間が持つサイコパスの鋳型に合ったキャラに過ぎないのかもしれません。
ではノリスケはというと……どうにも「本物寄り」である可能性が出てきました。もしかしたら近い将来、「サイコパス」の定義や認知度も進み、今の評価が逆転する時がくるかもしれません。
ですが、その時がきたところでノリスケはノリスケ、堀川くんは堀川くん、そして『サザエさん』は『サザエさん』のまま、今日もいい天気です。
(片野)