『ウルトラセブン』42話「ノンマルトの使者」BSで放映 歴史観を揺るがす衝撃エピソード
異文化間の板挟みになり続けてきたセブン

円谷プロの企画文芸室に所属していた金城哲夫氏は、『ウルトラマン』(TBS系)に続いて『ウルトラセブン』(TBS系)のメインライターも務めていました。凶悪怪獣たちを相手にした『ウルトラマン』に対し、『ウルトラセブン』は知性を持った宇宙星人たちとセブンとの対峙がたびたび描かれました。
モロボシ・ダン=ウルトラセブンは、第6話「ダーク・ゾーン」ではペガッサ星人と、第8話「狙われた街」ではメトロン星人と、第14~15話「ウルトラ警備隊 西へ」ではペダン星人らと、対話を試みてきました。しかし、異文化間の交渉はうまく成立しません。「ノンマルトの使者」でも、ノンマルトの暮らす海底都市は全破壊されてしまいます。異文化間の板挟みになるセブンの苦悩が、画面からは伝わってきます。
沖縄育ちの金城氏は6歳のときに、沖縄戦を体験しています。岡本喜八監督の戦争映画『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971年)でも描かれたように、沖縄戦は太平洋戦争で最も悲惨な戦いだったと言われています。米軍による鉄の雨が沖縄に降り注ぎ、大勢の沖縄市民が犠牲になっています。この戦いで、金城氏の母親は左脚を失い、2歳だった妹は終戦直後に亡くなっています。
キリヤマ隊長が破壊命令を下したノンマルトの海底都市には、非武装の民間ノンマルトたちもいたことでしょう。金城氏はどんな気持ちで、海底都市の爆破シーン、およびキリヤマ隊長の勝利宣言を執筆したのでしょうか。フィクションとはいえ、金城氏も平穏ではいられなかったはずです。最終話「史上最大の侵略」では、戦いの日々に疲労困憊したダンが描かれますが、その伏線にもなっているように感じられます。
ノンマルトの使者から、現代人へのメッセージ
子供の頃にテレビで観たドラマのなかに「ノンマルトの使者」と同じくらい、衝撃を覚えた作品があります。米国映画の『ソルジャー・ブルー』(1970年)です。白人の騎兵隊がネイティブアメリカンの集落を襲い、無抵抗の女性や子供たちまで殺戮するというショッキングなクライマックスでした。従来の西部劇では正義の味方だった白人の騎兵隊が、恐ろしい暴力集団として描かれていたのです。
もともと北米大陸は、ネイティブアメリカンがのどかに暮らしていた土地でした。しかし、移民である白人たちによって追い払われ、ネイティブアメリカンは住む場所を失ってしまったのです。ネイティブアメリカンにとっては、白人こそが野蛮な民族でした。
西部劇の歴史に終止符を打ったとされている『ソルジャー・ブルー』ですが、ベトナム戦争中に起きた「ソンミ村事件」を下敷きにしているそうです。米軍が非武装のベトナム人の村を襲撃した事件で、このことが世界に広まり、ベトナム反戦の声が高まることになりました。『ウルトラセブン』も『ソルジャー・ブルー』も、ベトナム戦争に対する反戦意識が作品に大きな影響を与えているように感じられます。
民族や時代によって、またどの立場から見つめるかによって、歴史観は大きく変わっていきます。自分がこれまでに学んだ歴史は、本当に正しいものなのか。ノンマルトの使者としてアンヌやダンの前に現れた真市少年は、今もこのことを私たちに問い掛けているのではないでしょうか。
(長野辰次)