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『怪獣8号』ヒーローになれなかった主人公 面白さを「これでもか」と詰め込んだ傑作

2020年7月に「ジャンプ+」で連載開始されて以来、大きな注目を集めているマンガが『怪獣8号』(作:松本直也)です。かつて怪獣退治に憧れながら夢はかなわず、今は遠い世界で働く主人公・日比野カフカが、怪獣への変身能力を手に入れたことから始まる物語は、日本のみならず世界でも高い人気を獲得しています。

なんでこっち側にいるんだろ、俺…

著:松本直也『怪獣8号』第1巻(集英社)
著:松本直也『怪獣8号』第1巻(集英社)

32歳独身。
夢は破れ。
約束は守れず。
約束の相手は遥か彼方。
称賛羨望される姿をただ眺め。
安酒で憂さを晴らす。

もう夢を追う資格などなかったと思っていた。
もう後を追う資格もなくなったと思っていた。
そんな主人公が、自ら怪獣になったとき。
物語は軋み音を立てながら、超高速で回り始めたのです。

怪獣が災害として人間社会を脅かす世界に生きる『怪獣8号』(作:松本直也)の日比野カフカを主人公とするストーリーは、2020年7月の「ジャンプ+」での連載開始以来、大きな注目を集めています。単行本の累計発行部数は2021年12月現在で550万部を突破(電子版含む)。「マンガ大賞2021」にノミネートされ、「次にくるマンガ大賞2021」ではではWebマンガ部門で1位を獲得し、 これからの大きな展開も期待されるタイトルであることは間違いありません。

 さて、主人公・日比野カフカは幼い頃に住んでいる街を怪獣に破壊され、幼なじみと怪獣退治の防衛隊員になると約束するも果たせなかった32歳の男性です。

 共に怪獣を退治しようと誓った幼なじみの名前は亜白ミナ。今は防衛隊第3部隊の隊長として怪獣を退治し人々を救い続けており、ふたりの間には決して越えられぬほどの絶望的な壁が生まれていました。

 すでに防衛隊の募集年齢制限を超えてしまったカフカには、夢を追う資格すら失われています。退治された怪獣の解体清掃を行う仕事に就き、日々を暮らしていたカフカでしたが、ある日、防衛隊を目指す青年・市川レノが新人バイトとして現れ、少しずつ運命が動き始めたのです。

 仕事を通じて仲良くなったレノの口から、防衛隊員の募集年齢が33歳未満へと引き上げられたことを聞かされたカフカでしたが、次の瞬間レノ共々怪獣に襲われ、命がけで立ち向かうハメに。もうダメだと思ったその時、彼らを救ったのは誰あろう、幼なじみのミナでした。

 前線で戦うミナの姿に触発され、レノに励まされ、再び防衛隊員を目指そうと決意したカフカ。しかしそのとき、目の前に現れた謎の生き物に体の中に飛び込まれ……。

 運命は、想像もしない方向へと変転してしまったのです。

仲間たちと共に強敵と戦う

共に戦うことになる同僚・市川レノ 著:松本直也『怪獣8号』第2巻(集英社)
共に戦うことになる同僚・市川レノ 著:松本直也『怪獣8号』第2巻(集英社)

 カフカと言う名は、実存主義文学で知られる作家、フランツ・カフカから取られたものでしょう。カフカの代表作と言えば、ある朝に目覚めると主人公の男が巨大な虫になっていた『変身』が挙げられます。

 そう、日比野カフカは怪獣へと変身してしまったのです。それも、とびきり強力な怪獣に。

 防衛隊により怪獣8号と名付けられたカフカは、正体を隠しながら防衛隊の試験に参加し、多くの同期生に出会います。

 なかでも防衛隊長官・四ノ宮功の娘である四ノ宮キコルとは試験を通じて関係性を深めていきます。父親との関係が少し特殊なキコルにとって、カフカはおそらく生まれて初めて出会った精神的支えになる男性でもあり、今後が気になるところです。

 作品の詳細な展開についてここに書くことはできませんが、ほぼ全編が見どころ満載、しかも極めてテンポよく進むのが本作の大きな特徴です。

 序盤の怪獣の残骸を清掃するシーンは、映画『パシフィック・リム』でも描写されており、間もなく清掃処理そのものを題材とした『大怪獣のあとしまつ』も公開される予定です。昭和の時代から、多い時には週に5~6体の怪獣が退治されてきた日本にとって、非常に重要な問題を取り扱っていると言えるでしょう。

 バトルやストーリーの描写も非常にテンポがよく、またスリリングな展開が続くにもかかわらず、ほどよいギャグ描写が息抜きとなって非常に読みやすい作品となっています。

 キャラクターたちの心理描写も巧みに挿入されており、特に幼なじみのミナは立場が変わってもカフカとの「怪獣退治のときに隣にいる」約束を忘れておらず、ひとり「嘘つき……」と呟く場面は控えめに言って最高です。

 なぜ、謎の生き物はカフカに取りついたのか。カフカが怪獣となった理由は何か。怪獣たちはなぜ人を襲うのか。カフカとミナの関係性の行方は。絶望を見たキコルはどうなっていくのか。徐々に才能を開花させてゆくレノの今後は。頼りになる仲間たちとの戦いはどのような展開を迎えていくのか。マンガの面白さのエッセンスをこれでもかと詰めこんだ本作の今後に、期待は高まるばかりです。

(早川清一朗)

 

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