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『鬼滅の刃』に大きな影響与えた編集者の仕事  「○○の呼吸」が生まれたきっかけも?

マンガ家の担当編集者さんとう存在は、いったいどれだけ作品に影響を与えているのでしょうか? 大ヒットマンガ『鬼滅の刃』を例に、その「仕事」を掘り下げていきましょう。

『鬼滅』大ヒットの裏には 担当編集者との二人三脚が…

マンガ『鬼滅の刃』第1巻(集英社)
マンガ『鬼滅の刃』第1巻(集英社)

 マンガ家の先生には担当編集者がいます。担当編集者さんの仕事といえば、マンガ家に良い作品を描いてもらうべくそのモチベーションを維持すること、そして時には作品の展開を一緒になって考えることもしばしば。例えば、鳥山明先生の担当編集者だった鳥嶋和彦さんは『ドラゴンボール』のアンケート順位が下がった際に協議の末、私たちの知っている「修行→バトル」の展開へと舵を切ったといいます。

 さて、令和最大級の大ヒットマンガといえば『鬼滅の刃』(著:吾峠呼世晴)。連載は2020年5月に終了していますが、単行本は1億5000万部を突破。劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では日本映画の歴代興行収入記録を塗り替え、また2021年12月からはアニメ第2期となる『遊郭編』が放送され、SNSなどでは今なお「鬼滅旋風」の真っただなかといっても過言ではありません。

 果たしてそんなメガヒット作品『鬼滅の刃』において、担当編集者さんはいかなる役割を果たしたのでしょうか。今回は鬼滅の基盤を作った初代担当編集者さんの仕事ぶりを中心に解説していきます。

●「マンガ家を辞める」寸前だった吾峠先生をヒットへと導いた片山さん

『鬼滅の刃』の立ち上げ担当編集者は片山達彦さん。2010年に集英社に入社、これまでに『ブラッククローバー』(著:田畠裕基)や『呪術廻戦』(著:芥見下々)も担当し、「ジャンプ」はもとよりコンテンツビジネス全般の底上げをした超敏腕編集者でいらっしゃいます。他方、もともとマンガ家志望でもあり、それゆえにマンガ家の先生に対する敬意も大きい方です。

 さてそんな片山さんが吾峠先生と出会ったのは2014 年。その時、吾峠先生は『鬼滅』の前身となる作品を描き上げており、片山さんはその圧倒的な才能、とりわけ言語センスに衝撃を受けたと言います。

 ではそこからトントン拍子に『鬼滅』の連載が決まったかといえばそうではありません。「ジャンプ」編集部トップが連載作品を決定する会議に、何度もネームを提出しては落選するという結果が続きます。ついには2015年に連載が決まらなければ「マンガ家を辞める」とまで吾峠先生は宣言。これに焦ったのが才能に惚れ込んでいた片山さんです。

 まず片山さんはモチーフをわかりやすいものにしようと提案。その際に前身作品にあった「大正時代」と「刀」を採用する方針が固まったのだとか。しかも、もともと脇役予定だった炭治郎を主役に据えることで物語の推進力が生まれ、ついに連載会議を突破。ついに吾峠呼世晴という巨大な才能が世に出ることになるのです。まさに片山さんとの二人三脚でこぎつけた連載でした。

●「○○の呼吸」は片山さんがいなければ誕生していない?

 単行本やファンブックでも描かれている通り、吾峠先生からすれば片山先生は非常に優しく頼もしい存在だったようす。なんでも「人生でこんなに労われたことがない」ほどにいたわってくれたとか。

 では次に、より具体的に『鬼滅』の物語に片山さんがどのように寄与していったのかを見ていきましょう。

 まず代表的な例でいえば『鬼滅』の代名詞でもある「○○の呼吸」という技名。実はこれも片山さんの存在が大きく関わっています。というのも、最初に吾峠先生が提案した技名は「鱗滝式呼吸術」。これを片山さんは「ださいからやめましょう」とバッサリ。以降、侃侃諤諤(かんかんがくがく)のやりとりが続き、私たちの知る「○○の呼吸、○ノ型」という技名が決定したのです。いかに編集者さんの目線が重要か分かる一幕です。

 またマンガ家の先生と編集者さんの取捨選択の感覚の違いも非常に重要です。『鬼滅の刃』では吾峠先生が少年マンガらしくないのでカットしようとした場面を、片山さんが慌てて止めたシーンがあります。

 それが、第8話の倒した手鬼の手を握り「この人が今度生まれてくる時は鬼になんてなりませんように」と祈りを捧げるシーン。炭治郎というキャラクターを象徴する、序盤屈指の名シーンです。片山さんの制止がなければ、私たちはこの場面に出会えてなかったかもしれないのです。

 さて、そんな片山さんですが、諸々の都合により13話で『鬼滅の刃』の担当編集から外れています。その際、こっそり「少なくとも打ち切りにならない虎の巻」を渡していったとか。果たしてこれが役にたったのかどうかは不明ですが、少なくとも吾峠先生からしても、片山さんからしても、呼吸の合った「良い仕事」ができたことは冒頭に挙げた圧倒的事実が物語っています。

(片野)

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