名曲「誰がために」生んだ『サイボーグ009』第2作 制作陣は多くの難題に挑んで…
石ノ森先生の要望に応え、原作に近づけたアニメに
本作の監督を務めたのは、後に『装甲騎兵ボトムズ』などを手掛け、アニメの世界に新たな風を吹き込んだ高橋良輔氏。制作は日本サンライズが手掛けることになったのですが、ちょうど『機動戦士ガンダム』が同時に進行しており、部屋がなかったのでアパートを借りてスタッフルームにした……というエピソードが残されています。
メインキャラクターデザインは故・芦田豊雄氏が担当し、石ノ森氏の描いたサイボーグ戦士たちをアニメ向けにブラッシュアップすることに成功しています。また、009のアップが印象的なオープニングアニメーションは、後に個性的な演出で名をはせる金田伊功氏が原画を担当しており、才能を思う存分に発揮した形となっています。
しかし、本作をアニメ化するには、大きな問題点が存在していました。それは、原作が当時としてはかなりの大作で、どのエピソードをアニメにするのか選ぶ必要があったのです。また、1968年に放送された第一作は007が子供になるなど、原作の改変が行われており、石ノ森先生は不満を感じていたそうです。そのため、本作では石ノ森先生から「キャラクターを変えないでほしい」と要望があり、鈴木プロデューサーは可能な限り原作に近づけたアニメを作るために奔走することとなりました。
最終的には北欧神話に着想を得たエッダ編をベースとし、「宇宙樹」編としてスタートを切ったのですが、当時の北欧神話は、現代とは違って人びとになじみのある設定ではなく、資料の入手にも事欠いたため、9話で一旦区切りをつけて仕切り直しとなりました。
その後は、サイボーグたちそれぞれのエピソードを描いた「戦士の休息」編でキャラクターのクローズアップを行い、さらにネオ・ブラック・ゴーストとの戦いを描いた「ネオ・ブラック・ゴースト」編へと突入するなど、さまざまな展開を見せて1年間の放送を見事に走り切っています。
声優も豪華なメンバーが揃っているのですが、なかでも特筆すべきは井上和彦氏が主役である島村ジョーを演じたことでしょう。井上氏は当時『キャンディ・キャンディ』のアンソニー・ブラウンでブレイクしていましたが、主役となると『超合体魔術ロボ ギンガイザー』のみの状況でした。
しかし『009』以降は『とんでも戦士ムテキング』『太陽の牙ダグラム』『百獣王ゴライオン』『蒼き流星SPTレイズナー』など、次々と少年向け作品で主役を演じるようになっていきます。『009』のような注目度の高い作品で実力ある先輩たちに囲まれながら1年間のアフレコを乗り切ったことが、井上氏にとって大きな力となったのかもしれません。
(早川清一朗)
※参考文献:『夢を追い続ける男』(著:鈴木武幸 講談社)
(本文を一部修正しました。 (2022.3.6 14:58)