「親ガチャ」で見る、5人のガンダム主人公 不幸な出自でもまっすぐに育ったのは?
最近よく耳にするようになった「親ガチャ」という言葉があります。親を選べない子供の苦労を皮肉った言葉ですが、このような視点で富野監督のガンダム主人公たちで見ていくと、面白いことが見えてきました。
裕福でも、両親との隔たりを感じたアムロとカミーユ

昨年、2021年の新語・流行語大賞のトップテンに選出された「親ガチャ」。子供は親を選べないという意味の言葉ですが、これをフィクションの世界、ガンダムシリーズに当てはめて考えてみると、さまざまな親子関係が見えてきます。
まずは、シリーズの元祖主人公のアムロ・レイ。アムロが主人公になりえたのは、偶然からガンダムに乗り込み、そのパイロットになったことです。しかし、それは父親であるテム・レイがガンダムを開発し、アムロを連れてサイド7に住んでいたことが前提にありました。つまり、アムロが主人公になれたのは父テムのおかげだと言えるかもしれません。
しかし、アムロは幼少期からの人格形成に関して、テムの行動に大きな影響を受けています。メカに興味がある内向的な性格は、片親で忙しいテムの影響であることは間違いないでしょう。母親のカマリア・レイがもしも一緒ならば、もう少し社交的な性格になっていた可能性もあります。
逆説的にいえば、一年戦争で両親と心理的な決別をしたことで、アムロは「英雄」といわれるほどの活躍をすることになりました。そう考えると「親ガチャ」的には微妙でも、早いうちに独立することでアムロは大きな一歩を踏み出せたのかもしれません。
裕福な家庭を持ち、両親が一緒にいても不幸な境遇におちいったのが『機動戦士Zガンダム』の主人公のカミーユ・ビダンです。父親のフランクリン・ビダン、母親のヒルダ・ビダンはどちらもに仕事に没頭して、家庭をかえりみない性格だったことから、カミーユは幼いころから孤独な境遇にいました。
両親に強い不満をいだいていたカミーユの悩みのひとつに、自分の名前が女性的であるという思い込みがあります。そのため、カミーユは男性的な趣味に没頭するようになり、小型飛行機であるホモアビスやジュニア・モビルスーツを操縦し、空手部に入るなどしました。
こうした環境から、カミーユが感情の起伏が激しい性格になったのかもしれません。エゥーゴ入りしてからは良好な人間関係を築き、徐々に感情に左右される部分は減り、戦闘以外では次第に穏やかになっていきました。逆に、グリプス戦役終盤までに積み重なった人の死というストレスが精神崩壊のきっかけでしたから、いかにカミーユの心が他者とのコミュニケーションに左右されていたかがわかります。
このように、他者との関わりがカミーユの精神に強い影響を与えてしまうという点は、幼いころから家庭的にはコミュニケーション不足だったこと、つまり他者との付き合いになれていなかったことが原因かもしれません。