レジェンド声優・井上和彦 枕を涙で濡らした新人時代、転機となったキャラとは?
レジェンド声優として声優ファンにはおなじみの井上和彦さん。しかし、新人時代には今では考えられない苦労がありました。そんな苦悩の声優人生を変えたのは、自身の代表作となるふたりのキャラを演じたことだったのです。
声優人生を大きく変えたキャラ

3月26日は声優の井上和彦さんのお誕生日です。井上さんといえば、代表作も多いレジェンド声優ですが、これまでの道のりはけっして平坦なものではありませんでした。
学校を卒業した井上さんは、プロボウラーを目指してボウリング場に就職したそうです。しかし、思い描いていた理想と現実のギャップから人間不信になって退職、一人暮らしのアパートで引きこもり状態になりました。
そんな時、ボウリング場での同僚が声優を目指していたことから、一緒に試験を受けることになります。本人的には人と話すリハビリと考えていました。ところが、この試験に合格し、声優養成所に通うことになります。
この養成所の講師だった永井一郎さんの指導のもと、井上さんは声優の勉強を重ねました。そして養成所卒業後、永井さんの推薦で青二プロダクション入りを果たします。この永井さんは井上さんの師匠的存在でした。プライベートでも深い親交があり、時には私生活のことでも注意を受けるようなこともあったそうです。
そんな井上さんのデビューは『マジンガーZ』(1972~1974年)の兵士役でした。しかし、緊張からタイミングに合わせて声を出すことができず、後から別録りとなったそうです。
そして、次なる試練だったのが初めてのレギュラー役をもらった『UFOロボ グレンダイザー』での出来事。井上さんは一度だけの出演で役を下ろされてしまいました。この時、情けなさから毎日、枕に顔をうずめて泣いていたと語っています。
しかし、ここで挫折することなく毎日、近所の土手でその時の「大変です、UFOが来ました!」というセリフを練習しました。途中で通報されそうになってからは台本を持って練習したそうです。
この努力が少しずつ実り、『一休さん』(1975~1982年)の第22話から三代目の哲斉(てっさい)役を演じることになりました。井上さんにとって初めての名前付きキャラです。
その後、最初の代表作といえる『キャンディ・キャンディ』(1976~1979年)でアンソニー・ブラウンを演じ、初の主演作となる『超合体魔術ロボ ギンガイザー』(1977年)の白銀ゴローを演じるなど、ようやく順調に歩んでいきました。
井上さんがスターダムに昇っていくきっかけとなったのは、やはり『サイボーグ009』(1979年)の009こと島村ジョーでしょう。
人気マンガの二度目のTVアニメ化という話題性のある作品だったことから、かなりの人数の声優がオーディションを受けていたそうです。しかし、なかなか009役は決まらず、新人である井上さんにも機会が回ってきました。
この時、井上さんはまず自己紹介をしたそうです。「サイボーグ009・島村ジョー役をやる井上和彦です!」……そうしたら、監督がバッっと立ち上がり「それだよ!」と言って、井上さんが009を演じることが決まりました。井上さんいわく、地声を気に入ってくれたそうです。
この時の監督が高橋良輔さん。後に自身の監督作品である『太陽の牙ダグラム』(1981~1983年)ではクリン・カシム、『蒼き流星SPTレイズナー』(1985年)ではアルバトロ・ナル・エイジ・アスカと、井上さんを主演に抜てきしています。この高橋監督の起用が、声優としての井上さんの実績と自信を育てたのでしょう。