「心の闇」描いた藤子不二雄Aさん 『魔太郎がくる!!』では本気の投書が殺到して…
2022年4月17日(日)午後2時27分から、NHK総合で『インタビューここから選「漫画家 藤子不二雄A」』が放送されるなど、先日亡くなられた藤子不二雄Aさんの追悼番組をTV局は編成しています。藤子・F・不二雄さんとの合作で人気マンガを生み出したほか、コンビ解消後も大人向けの作品を手掛けました。「黒い藤子不二雄」と呼ばれたAさんの代表作を振り返ります。
人間の心の闇を見つめた人気マンガ家

「ココロのスキマ、お埋めします」
ブラックユーモアたっぷりな『笑ゥせぇるすまん』の主人公・喪黒福造は、そんな一文が記された名刺を差し出し、日常生活に不満を持っている人たちに不思議な体験をもたらします。
数々の傑作マンガを残した藤子不二雄A(本名:安孫子素雄)さんが、2022年4月7日に亡くなられました。1934年(昭和9年)富山県生まれ。「トキワ荘」の仲間たちと青春時代を送り、戦後のマンガ文化を大きく育てた功労者のひとりです。
藤子・F・不二雄さんとの共作だった『オバケのQ太郎』のほか、『忍者ハットリくん』『怪物くん』『プロゴルファー猿』などの人気作を生み出しました。自伝的マンガ『まんが道』『愛…しりそめし頃に…』に感銘した人も多いことでしょう。NHK総合では、追悼番組『インタビューここから選「漫画家 藤子不二雄A」』を4月17日(日)午後2時27分から放送します。
今回は『笑ゥせぇるすまん』をはじめ、人間の心の闇をサングラス越しに見つめ続けた藤子不二雄Aさんの代表作を振り返りたいと思います。
夢と破滅が時間差で訪れる『笑ゥせぇるすまん』
一見するとマジメそう、平凡そうな人たちの心のなかに隠されたドロドロの欲望を、ユーモアを交えて暴き出してみせたのが『笑ゥせぇるすまん』です。1989年~92年に放送された情報バラエティ番組「ギミア・ぶれいく」(TBS系)内でアニメ化されたことで、多くの人に親しまれた作品です。
異形の姿をしたセールスマン・喪黒福造に声を掛けられた人たちは、心の奥に隠していた欲望を実現させ、束の間の夢心地を味わいます。しかし、欲望に酔いしれるあまり、喪黒との約束を破り、破滅を招いてしまうのです。顧客が自滅した様子を見届けた喪黒は、「オーッホッホッホッホッ……」という笑い声を残して去っていくのでした。
喪黒に出会った人たちは、ほとんどが悲惨な結末を迎えますが、一瞬だけでも夢を叶えることができます。至福感と絶望が、ほんの少しの時間差で訪れるのです。夢と破滅は背中合わせの関係であることを描いた、大人のためのファンタジーでした。
藤子・F・不二雄さんの代表作『ドラえもん』が「陽」の作品なら、『笑ゥせぇるすまん』は「陰」の作品だと言えるでしょう。藤子不二雄というペンネームを長年共有していたふたりが、次第にテイストが異なる作品を生み出すようになっていったことも興味深いものがあります。