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なぜジブリ作品では「専業声優」以外を起用するのか 「芝居の上手さ」より重視したものとは?

高畑勲監督が感心した、関西芸人たちの芝居

西川のりおさんをはじめ、関西の芸人たちが声の芝居に参加した、劇場版 『じゃりン子チエ 劇場版』DVD(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント)
西川のりおさんをはじめ、関西の芸人たちが声の芝居に参加した、劇場版 『じゃりン子チエ 劇場版』DVD(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント)

 スタジオジブリ創設以前に高畑勲監督が作った劇場版『じゃりん子チエ』(1981年)という映画はご存知でしょうか。はるき悦巳さんの同名マンガを原作とし、大阪の下町を舞台に小学生ながらホルモン屋と取り仕切るチエと、ケンカや博打に明け暮れる父テツの親子を取り巻く人間模様を描いたコメディです。

 ここで声の出演としてチエ役に当時参議院議員でもあったタレントの中山千夏さん、テツ役に漫才師の西川のりおさん、そして折からの漫才ブームもあって、周辺の人物には関西の芸人たちが起用されました。

 同作のアフレコで芸人たちのアドリブや怪演を目の当たりにした高畑勲監督は、中山さんや西川さんの好演に感心しながら「アフレコでなければ、もっとよかったはず」と後悔したといいます。吹き替えもそうですが、アフレコである以上、演者は映像に合わせた芝居を強いられます。そのことで彼らの生の芝居の魅力を存分に活かせなかった……と感じたのでしょう。

 スタジオジブリ作品の「演者が持つ生の存在感を重視するキャスティング」の根は、ここにあるのではないかと筆者は考えます。

 高畑勲監督は、もとより客観性とドキュメンタリー志向の強い作家性で知られる監督です。それゆえ現場での演者が持つ素の魅力を引き出す方向に、高畑勲監督は惹かれていったのではないでしょうか。

 そのために高畑勲監督が採用したのが、作画の前に声の芝居を収録する「プレスコ方式」でした。この方法なら、手間はかかりますが、演者の芝居にあわせて作画を修正することが可能です。『火垂るの墓』(1988年)の一部の場面で使用した後、続く『おもひでぽろぽろ』以降すべて作品の声の芝居は、主にこのプレスコで録られています。

『おもひでぽろぽろ』制作の際、高畑勲監督が今井美樹さんのキャスティングにこだわった件は前述しましたが、こうしたプレスコへの指向こそ、芝居の器用さよりも、演者さん自身が持つ個性の強さに重きを置くようになった証左ではないでしょうか。

 そして、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)、『かぐや姫の物語』(2013年)と、作を重ねるにつれて、より個性が強い俳優やタレントの割合が増え、専業声優の起用は少なくなっていきました。

【画像】「俳優」でない人も出演! 役にハマっていた「ジブリ作品」の主人公たち(7枚)

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