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なぜジブリ作品では「専業声優」以外を起用するのか 「芝居の上手さ」より重視したものとは?

「ナウシカ」声優にまさかの指導も…

『もののけ姫』では、森で育った少女・サンを石田ゆり子さんが、サンを育てた山犬・モロの君を美輪明宏さんが演じた (C) 1997 Studio Ghibli・ND
『もののけ姫』では、森で育った少女・サンを石田ゆり子さんが、サンを育てた山犬・モロの君を美輪明宏さんが演じた (C) 1997 Studio Ghibli・ND

 一方、宮崎駿監督作品は、現時点(2022年)での最新作である『風立ちぬ』まで、基本アフレコです。これは高畑勲監督が演出出身であるのに対し、宮崎駿監督が動きとタイミングのコントロールにこだわりを持つアニメーター出身であることが関係しているのかもしれません。

 それでも高畑勲監督作品の変化に刺激されたのか、『紅の豚』(1992年)で主役やメインキャラに専業声優でない役者を多数登用し、続く『もののけ姫』(1997年)で専業声優の割合は著しく減りました。

 特に、制作に3年、制作費23億円と伝えられる超大作『もののけ姫』は、アフレコも3か月にわたる長期間で、前述の糸井重里さんとの対談で宮崎駿監督が述べていた不満の要素ができるだけ排除された現場といっていいでしょう。

 そのアフレコにタタラ場のトキ役で参加した声優の島本須美さんは、「せっかくだから、代わってもらいな」というセリフで、宮崎駿監督から「職業上の仮面があるね。それを引っぺがさないと駄目だね」と、20回もリテイクを受けたそうです。

 ご存知の通り、島本さんは『ルパン三世 カリオストロの城』のクラリス・ド・カリオストロと、『風の谷のナウシカ』のナウシカという二大ヒロインを演じ、初期の宮崎駿監督作品のイメージ構築に多大な貢献をした声優です。そんな彼女に、宮崎駿監督は声優としての芝居を削ぎ落す方向で演技指導を行っていたのは興味深いです。

 高畑勲監督と宮崎駿監督のキャスティングは、演者としての技術よりも生の存在感を重視するのではないか……と先に述べましたが、高畑勲監督がプレスコで演者に任せることでその存在感を引き出そうとしたのに対し、宮崎駿監督のアプローチは対照的といえるでしょう。

 一昨年(2020年)に掲載された「文春オンライン」のインタビューで、島本須美さんは『カリオストロ』や『ナウシカ』での自分の芝居について、次のように語っています。

「クラリスの時もそうですけど、初々しいゆえに演技に狙っているところがないじゃないですか。ああいうのは、やっぱりすごいなとは思います。クラリスもナウシカもやればできますけど、どこか作り物になっちゃう。あの頃の演技は、どうしたってできない」

 専業声優以外を登用することで話題になることが多いスタジオジブリのキャスティングですが、その設立以前から「演技」の先にある演者の「人間性」を作品に反映させようとしていた高畑勲監督や宮崎駿監督の考えを実現できる体制が、ようやく整ったということなのかもしれません。

※引用・参考文献:
『ジブリの教科書3 となりのトトロ』(文春文庫)
『高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの』
『宮崎駿全書』叶精二・著(フィルムアート社)
DVD『「もののけ姫」はこうして生まれた。』
文春オンライン「「泣きたいのなら『おしん』を観ればいいんです、と監督が」ナウシカ声優が語る、宮崎駿の素顔」

(倉田雅弘)

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