アニメブームの影で「声優業界」は危機…音の責任者「それでも希望はある」
アニメブームに伴い、バラエティ番組やTVドラマに顔出し出演する機会が増えるなど、ますます華々しい活躍を見せる「声優」。一方で、「コロナの影響もあり声優業界は危機に瀕している」とアニメ収録現場の最前線に立つ長崎行男音響監督は明かします。声優業界の知られざる現状と未来への展望とは。
「音の責任者」から見た、声優業界が抱える問題とは?
「脚光を浴びている声優は、ほとんどが超一流の方で、全体から見ればほんのひと握り。逆に、業界の将来を担うべき若手は、危機に瀕しているのが現状です」
近年、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』の大ヒットが顕著なように、「アニメ」は完全に市民権を得ました。それに伴い、キャラクターたちに声を通して命を吹き込む「声優」への注目が高まり、最近ではバラエティ番組や実写ドラマ出演など、大物芸能人と肩を並べる機会も珍しくありません。しかし、そうした華々しい活躍の一方で、声優業界は危機に瀕しています――。
そう訴えるのは、「ラブライブ!」シリーズ等の音響監督で知られ、古くは「シティーハンター」シリーズや映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の音楽プロデュースを手掛けるなど声優業界を長く知る第一人者の長崎行男氏。アニメ制作の現場で数々の声優とともに仕事をしてきた「音の責任者」から見た、声優業界が抱える問題とは? そして、「それでも希望はある」と語る理由とは。
(取材・文:いしじまえいわ/撮影:小原聡太/編集:沖本茂義)
●新人声優は仕事減、ベテランに集中するワケ
「新型コロナウイルス感染症の拡大により、アフレコが集団収録から個別収録に移行した結果、声優ひとりひとりの拘束時間が短くなりました。その結果、従来であれば引っ張りだこで起用が難しかったベテラン声優にスケジュールの余裕ができ、彼らに依頼が集中するようになりました。逆に新人声優が日の目を見る機会が激減してしまったのです」
さらに新人を追い込むのが、声優の報酬を決める「ランク制度」(※)だといいます。
「若手の声優は、最低ランクの『ジュニア』からキャリアをスタートします。はじめ3年間はギャランティーが低いまま一定なのですが、そのぶん起用されやすくチャンスが増えるという仕組みになっています。しかし、新型コロナが沈静化せず満3年が経過してしまえば、3年前にデビューしたジュニア声優は経験が少ないままギャランティーが高くなってしまい、ろくに仕事を得られないままごっそり事務所を去ることになります。これが続けば、5年10年後にはある世代の人材が全くいないという大きなブランクを生むことになります」
※「ランク制度」とは、日本俳優連合(日俳連)、日本音声製作者連盟(音声連)、日本芸能マネージメント事業者協会(マネ協)の三者間の取り決めで、声優の最低賃金の保証やテレビ放送、映画上映などのギャランティーの料率を決めている制度。近年は、小さい声優事務所や音響制作会社が増え、「ランク制度」が便宜的な報酬条件として扱われるようになり、ジュニアランクのまま5年以上業界に身を置く声優も存在する。
また、仮に現場に立てたとしても、個別収録では他のキャストの演技を見聞きすることも掛け合いの演技をすることもできず、現場で演技を学ぶことができません。収録後の飲み会で新人が先輩声優やスタッフから教わることも多かったのですが、そんな機会も失われてしまった。新型コロナによって、声優はデビューだけでなく成長も難しくなってしまったのです。
さらに声優だけでなく、音響監督らスタッフにとっても新型コロナの影響は深刻です。
「個別収録になることで声優の拘束時間は少なくなりましたが、僕らは全員の収録が終わるまで帰れません。スタッフの拘束時間は逆に増えています。そのため自分から新人声優を探す時間も無くなってしまいました。また、スタジオ内での接触人数を減らすため、声優のマネージャーは収録現場への立ち入りが認められなくなっています。マネージャーからいい若手を紹介してもらうことも多かったのですが……」
同じようなことは他の業界や多くの企業でも起きていますが、声優業界も例にもれず、特に新人にとって過酷な状況になっているといえるでしょう。