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アニメブームの影で「声優業界」は危機…音の責任者「それでも希望はある」

過酷な環境でどんな新人声優が生き残れるのか?

長崎行男氏
長崎行男氏

 昨今、邦画界では有名監督がキャスティングと引き換えに肉体関係を要求していたという告発が相次いでいます。今、声優業界において仕事を得ることも技術を磨くことも難しいとなると、同じようなことが起こり得るのでしょうか。

「仮にそんな経緯で技術のない人を一度キャスティングしてしまうと、関係が切りづらくなってしまい、その人を複数の作品で何度も使わざるを得なくなってしまいます。そんなことをしてしまっては監督・プロデューサーとしての能力を疑われてしまいますから、僕なら怖くてできません。またそもそもですが、現在製作委員会方式で作られているアニメの配役は音響監督だけでなく、監督や各委員会企業のプロデューサーなどの総意で決められています。誰かひとりの意向で人をねじ込めるようなシステムにはなっていないのです」

 極端な権力の集中がないからこそ声優業界では邦画の世界と同じことは起こりにくい、というのが実態のようです。では、どんな声優であれば現場に立つチャンスを与えられ、業界で生き残れるのでしょうか。

「声優という仕事に向いていて、かつ運がよかった人しか残れない厳しい世界であることは前提ですが……まず、自分の確固たる意志を持ち、演技プランをふくめた『提案ができる』人。そのうえで『人に好かれる』という、相反する要素を兼ね備えた人だと思います」

 台本を読み込み、与えられた役を誰よりも理解して演じることが声優には求められる。だからこそ、ときには「私はこう解釈した、だからこう演じたい」という演技の提案が、音響監督の意見とぶつかることもありえます。しかし、むしろそういった意見対立と発展的な議論がいい演技には不可欠だと長崎氏はいいます。

「演技がよければ台本を無視してくれても構いませんし、提案が素晴らしければ音響監督の権限で台本を書き換えてしまうこともあります。声優にはそういった力のある演技の提案を期待しています。そのうえで、『次もこの人にお願いしたい』と好かれることも必要です。本来両方が必要なのですが、後者にばかり意識が行ってしまっている人が多いように感じます。素直で従順なだけの人はあまり良くないんですけどね」

長崎氏の代表作「ラブライブ!」シリーズの最新作『ラブライブスーパースター』。第2期が2022年7月よりNHK Eテレにて放送
長崎氏の代表作「ラブライブ!」シリーズの最新作『ラブライブスーパースター』。第2期が2022年7月よりNHK Eテレにて放送

●あえて滑舌を甘くすることも…今後求められる「芝居のトレンド」

 コロナ禍で顕著になったとはいえ、声優の生き残りが難しいこと自体は、昔と今で変わりはありません。そんな環境下で第一線で活躍し続けている声優は何が違うのでしょうか。長崎氏によると、共通した資質があるといいます。それは「演技をアップデートしたり、使い分けたりできること」。

「映画を1940年代くらいから毎年10本ずつくらいピックアップして見ていくと如実にわかるのですが、役者の演技にはトレンドがあるんです。アニメに関しては、昔はデフォルメが効いた演技が求められていましたが、『けいおん!』(2009年)の辺りでナチュラルな演技にトレンドがシフトしたように感じます」

 声優の緒方恵美さんは『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)にて主人公・碇シンジを演じるにあたり、庵野秀明監督から「この子は内気な少年だから、もっとボソボソ喋って。セリフがはっきり聞こえるかはどうでもいい。本当に君の心から出たもので、心が動いて出る音がほしい」とディレクションされたと著書のなかで述べています(角川書店『再生(仮)』、p103)。緒方さんの自然な演技は画期的で作品への没入具合をより深いものし、長崎氏の指摘する通り、女子高生のナチュラルな日常を描いた『けいおん!』もまたその後のアニメのトレンドを作った作品だといえます。

「同じアニメでもデフォルメが強い作品であれば活舌のいい演技が合いますし、リアルタッチの作風であれば自然な演技が求められます。本当に上手い人は、後者のような作品ではあえて滑舌(かつぜつ)を甘めにして自然な演技で対応しています」

 現在、アニメは多くの人に楽しまれるジャンルとして定着しました。それに伴い、声優に求められる演技にも変化があるとして、「一般の人にとって聞きやすいナチュラルな演技」がより求められていくと長崎氏は分析します。

【画像】「声優だけはやめておけ」 大御所声優が赤裸々に語る(8枚)

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