少女マンガの神様・萩尾望都の伝説3つ 痴漢を撃退した武勇伝も!
マンガの前には痴漢だってこわくない
●マンガひと筋で痴漢も撃退
マンガを描くのが大好きで、四六時中マンガのことばかり考えているという萩尾先生。マンガに没頭するあまりの、驚きの武勇伝も残しています。
それはデビューしてしばらく経った頃のこと。当時の萩尾先生は、編集部にネームを持ち込んでもことごとくボツになる、という失意の日々を送っていたそうです(少女マンガの神様にも、そんな時代があったのですね)。
そしてある日、またしても編集部からボツをくらっての帰り道。当時住んでいたアパートへの道は、広~いキャベツ畑のなかを突っ切らなければならなかったそうですが、そこで突然、後ろから痴漢に羽交い締めにされてしまったのだそうです。人気のない畑のなかで襲われたのですから、普通だったら恐怖のあまり叫び声をあげるか、または怖すぎて声が出ないか……でも、マンガひと筋の萩尾先生は違いました。
なんと痴漢に向かって「今、それどころじゃないから!」と言い放ったのです。思わずひるんだ痴漢を後に、萩尾先生はそのまま無事帰宅したそうですが……ネームがボツにされたことに落ち込みつつも、おそらくは次のアイデアを練りながら歩いていた帰り道。そんな大事な時間を痴漢ごときにジャマされてなるものかという、気迫に満ちた声だったに違いありません。
●紙上にヨーロッパを生み出す方法とは?
萩尾先生の作品は海外、とくにヨーロッパを舞台にしたものが多いのですが、実際に現地で取材して描くことはほぼなかったそうです。ではどのようにして、ヨーロッパで暮らしているかのようなリアリティのある描写ができたのでしょう。実は萩尾先生は、資料の読み込み方も意外で繊細なのです。
先生の著書には、代表作のひとつ、ドイツを舞台とした『トーマの心臓』を描いたときのことが載っていました。それによると最も役立ったのは写真集などではなく、年間降雨量や毎月の平均気温などのデータだったそうです。
データを読み込むことで、キャラに着せる洋服にはがぜんリアリティが出ます。コートを着せるべきか否か、帽子は必要か、手袋もさせた方がいいのかなどが決まるのだそう。窓から見える木の種類は、樹木分布図を調べて決めたそうです。日の出や日没時間からは、朝起きた時にもう日が差しているのか、それとも室内に灯りが必要なのかが分かります。さらに萩尾先生は、ドイツの詩人が書いた詩を読むことで、土地のイメージを感じ取ったのだとか。私たちが何気なくめくっていたページには、萩尾先生が紙上に再現したドイツの香りが満ちていたのですね。
今回は萩尾望都先生に関する伝説のほんの一端をご紹介しましたが、まだまだ萩尾ワールドには語り尽くせないほどの魅力があります。ぜひみなさんも、改めて手に取って少女マンガの神様の世界を感じてみてください。
(古屋啓子)