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「無茶ぶり」多かった昭和・平成初期のアニメ脚本 小山高生さん語る、現場の苦闘と面白さ

『タイムボカン』シリーズでは「小山カメラマン」として劇中に登場した脚本家・小山高生さん。その後、『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『勇者特急マイトガイン』『地獄先生ぬ~べ~』など、80作品以上、合計800本以上の脚本を担当しました。そんなレジェンド脚本家が手掛けたアニメ脚本は、私たちの想像をこえた試行錯誤の連続でした。

マンガの1コマで30分の脚本を作成…?

『聖闘士星矢』アニメオリジナルのアスガルド編が収録された、『聖闘士星矢 DVD-BOX 4 キグナスBOX』DVD(バンダイビジュアル)
『聖闘士星矢』アニメオリジナルのアスガルド編が収録された、『聖闘士星矢 DVD-BOX 4 キグナスBOX』DVD(バンダイビジュアル)

 昭和の原作つきアニメ作品では、オリジナル要素がひとつの持ち味として機能していました。しかし現在は『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などをはじめ、オリジナル要素を極力廃し、原作の内容に忠実な脚本が好まれる傾向にあります。

 一方、昭和の大人気アニメの脚本では、また違った試行錯誤が求められました。『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『Dr.スランプ アラレちゃん』など、数多くの人気作を担当したレジェンド脚本家・小山高生さんにお話を聞きました。

 今でこそ「第2期」「第3期」とシリーズを分割して放送スケジュールを確保しているTVアニメですが、昭和の原作つきアニメの多くはインターバルがなく、オリジナル展開を入れることで原作に追いつかないよう調整しながら放送を続けるのが当たり前でした。小山さんにとって今も印象に残る苦労話のひとつが、『ドラゴンボールZ』の脚本です。

「打ち合わせに行ったら、プロデューサーから『このひとコマで脚本を書いてください』と言われたことがありましたね(笑)」

 1コマの内容から書き起こそうとすると、バトルの最中でストーリーを引き伸ばすため、敵味方が睨みあったまま組み合うこともできず、回想シーンを駆使するしかありません。

 また『聖闘士星矢』では、連載開始の10か月後からアニメ放送がスタートしたため、つねに原作の尻尾を見ながらの作業となりました。

「設定がすべて揃っていない状態で執筆しなければならないので、最初は断ったんです。しかし東映アニメーションのプロデューサーに『この状況で小山さんがどう面白くするか見てみたい』と言われて、つい乗せられてしまいました」

『聖闘士星矢』の場合は、『ドラゴンボールZ』と違って、「黄金聖衣争奪編」「北欧アスガルド編」といった形で、章単位のオリジナルエピソードが挿入できたのは幸いでした。そして、どちらのオリジナルエピソードも視聴者から高い評価を集めています。

 またキグナス氷河の師匠(水晶聖闘士)をオリジナルキャラクターとして登場させたところ、後を追う形で原作にも別の師匠(黄金聖闘士のカミュ)が登場してしまい、その辻褄合わせで苦労したといいます。

「ただ、辻つま合わせをすること自体は面白かったですよ。おそらく今の脚本家はなかなか遭遇することがない状況でしょうね。それに、章単位のオリジナルストーリーも、バトルの途中で引き伸ばすのとは違ってやりやすく、ある意味ラッキーでした。

 うまくいく作品は計算だけでは成り立たない、思いもよらないことが起こるものです。そういった巡り合せも、長期シリーズでは大切な要素だった気がします」

 思いがけない苦労もあった昭和の原作つきアニメの脚本づくりですが、「原作に忠実」な傾向の現在のアニメについて、小山さんは次のように語ります。

「原作そのままなら脚本家なんて必要ないですよ。『ドラゴンボールZ』も、制限のなかでいかに退屈させないようにするかを考えていましたが、そこが大変でもあり面白くもありました。今はそういったことがほとんどないのでしょうね」

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