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『シン・ウルトラマン』庵野秀明が追求した、概念としての「トクサツ」空間の魅力

庵野秀明は「現実と虚構を絶妙に配合させるバリスタ」

『シン・ウルトラマン』 (C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ
『シン・ウルトラマン』 (C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

 本物に近づけることを目指すのではなく、本物と空想が入り混じった独特の「トクサツ」空間を目指す。これが庵野氏の一貫して追求してきたもので、『シン・ウルトラマン』も同様の姿勢で製作されていると言えます。

 本作のウルトラマンと禍威獣(怪獣)も3DCGで作られていますが、ゴリゴリにリアルな動きをするという感じではありません。適度な着ぐるみ感を残しつつ美しい造形に仕上がっています。着ぐるみにはシワが出来てしまいますが、CGで作られたウルトラマンの体表はシワとも模様とも取れそうな微妙な塩梅に仕上げていて、現実感と作り物感が混在しているデザインになっています。

 禍威獣のデザインは、オリジナルのデザインを手掛けた成田亨さんの生物と金属のような非生物を融合させたような特徴的なデザインを生かしていて、ウルトラマン以上にCGの恩恵を受けています。着ぐるみでは表現しづらかった機械的なパーツはむしろCGの得意分野です。

 また、往年の合成映像の奇妙な遠近感を敢えて再現しているカットなどもありました。ビルの上にいる長澤まさみをちらっと振り返るウルトラマンのカットなどは、リアルで考えるとおかしな映像ですが、その奇妙さがむしろ「トクサツ」独特の味なんだということです。このカットなどは、当然今の技術ならもっと普通の遠近法で見せることもできますが、敢えて歪ませて独特の空間を作りたいわけです。

 また、それを飛んでいる時のウルトラマンが微動だにしないのも、リアルに考えるとそこまでブレずに姿勢をキープできるのは奇妙に思えますが、「トクサツ」感覚としてはありになります。地球人じゃないから人間離れした体幹をしているんだろうと思えてきます。

 本作における、これらの映像的な特徴は、かつての「特撮」技術の限界や予算の問題から生じたものも多いです。着ぐるみにシワができてしまうのは、リアルに考えたら嘘がバレるので見栄えが良くないですが、「本物と空想が交じり合う世界を構築する」というゴールを目指すなら、それもあった方がいいとなります。おかしな遠近感なども同様です。むしろ、それは現実にはないユニークな映像として別の魅力がそこにあるのです。言うなれば、概念としての「トクサツ」空間を新たに創出しようということです。
 その「トクサツ」空間は、100%現実を切り取った一般的な実写映像とも違いますし、絵で作り上げる100%虚構のアニメとも異なる空間のあり方です。これは実は、古いようでいて新しいものではないかと思います。ハリウッド映画などが典型ですが、VFX技術はどんどん本物と見分けがつかなくなってきていて、その進化自体は驚嘆すべきですが、表現の方向性はもっと多彩にあるはず。庵野氏はそれとは別の方向性を提示しているのだと筆者は考えます。

 もしかすると、「トクサツ」空間は「現実よりも安っぽくすれば簡単にできるのでは?」という意見もありそうですが、そう簡単なものではないと思います。現実感と虚構感を一流バリスタのごとく絶妙にブレンドさせるセンスが必須で、かなり繊細な手つきが要求されるでしょう。

 概念としての「トクサツ」空間は、上手く行った部分とさらに追求できる部分もあるという印象ですが、劇場で先行販売されている『シン・ウルトラマン デザインワークス』によれば、続編の構想はあるようですので、充分なヒットになれば続編が製作される可能性はあるでしょうし、来年公開予定の『シン・仮面ライダー』でも同様のチャレンジがあるでしょう。これからの庵野氏の挑戦も楽しみです。

(杉本穂高)

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