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『美味しんぼ』海原雄山が山岡士郎を長く許さなかった理由とは 対立は「教育のため」?

累計1億3500万部を記録した、グルメマンガの金字塔『美味しんぼ』。そのストーリーの根幹は主人公の新聞記者・山岡士郎と、その父親で陶芸家・書道家・料亭の運営を担う美食家・海原雄山の確執でしょう。一応の和解に至るまで単行本102巻を要した、親子の対立はなぜ生じたのでしょうか。

雄山が士郎にこだわる理由は何?

山岡士郎と海原雄山が和解した『美味しんぼ』102巻(小学館)
山岡士郎と海原雄山が和解した『美味しんぼ』102巻(小学館)

 和解まで単行本102巻を要し「史上最長の親子ゲンカ」と揶揄されることもあるのが、グルメマンガ『美味しんぼ』の主人公・山岡士郎と、その父親である海原雄山の対立です。

 東西新聞社の記者として、日本の食文化を残そうとする士郎。それに対して、超一流の陶芸家であり、書道家かつ日本の食文化を極めたような料亭「美食倶楽部」を運営する雄山は、事あるごとに難癖をつけ、ふたりはたびたび料理勝負を行うことになります。

 雄山は「士郎は私が生み出した出来そこない」と酷評し、士郎がすることを正面から認めることはほぼありませんでした。士郎がいないところでは、士郎が示した成長を「ふっ、士郎の奴め」などと喜ぶ場面もあるなど、「こじらしたツンデレ」でもあります。

 しかし、なぜこのふたりはこんなにも関係がこじれてしまったのでしょうか。劇中では「似たもの同士で、考え方も近い」と言及されてはいますが、対立が表面化したのは、士郎が病弱のまま亡くなった母親を顧みなかった雄山への制裁として「雄山の作品を叩き壊し、家を出た」こととされています。

 不思議なのは、雄山が(連載初期の描き方は違いますが)「人の失敗に対して、比較的寛容」な性格をしていることです。岡星良三をはじめ、雄山に仕える料理人はたびたび失敗しますが、そうした人たちは士郎に知恵を借りて、課題をクリアします。

 雄山には料理人たちが士郎に入れ知恵されているのを知りながら、そのことはほぼ怒らず、失敗を許す寛容さがあるのです。普通なら「自分と対立し、大切な作品を叩き割った」人物の知恵を借りるなど、逆鱗に触れるはずですが、そういう描写はほぼありません。

 雄山が許さないのは、士郎だけとも言えます。ただ雄山が自分の道を極めるために、士郎の母親に対して、パワハラ的な振る舞いをしていたことは「事実」ですから、雄山から士郎に歩み寄ってもいいはずなのですが、物語の最後までかたくなに拒否します(和解には士郎から雄山に謝罪するという、物語の序盤からすれば考えにくい譲歩が必要でした)。

 なぜ、雄山は士郎に対して、ここまで頑なだったのでしょうか。回想シーンでは「子供の士郎が取ってきた沢ガニを、雄山は唐揚げにするように指示し、士郎が喜ぶ」といった、良好な親子関係が示されていました。話し合いをする余地もあったように思えます。

 そうなった理由には、「士郎が雄山のどの作品を叩き壊したか」という点にあるのではないでしょうか。そもそも士郎は、陶芸や書道にも理解が深く、文化を愛する気持ちを持っている人物です。その士郎が「超一流の陶芸家」である雄山の作品を、ためらいもなく、叩き壊せるでしょうか。

【画像】長く対立した山岡士郎と海原雄山の物語を振り返る(6枚)

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