【シャーマンキング30周年への情熱(69)】本作が掲げるテーマ「自己確立」が生まれた背景とは?
2022年4月で最終回を迎え、1年にわたる放送を走りきったTVアニメ『シャーマンキング』。そこに込められたテーマは、原作の連載当時はマイノリティでした。作者の武井宏之先生があえてそれを扱った理由などを振り返ります。
「ナンバーワンよりオンリーワン」という主張

2022年4月まで全52話を駆け抜けたTVアニメ『シャーマンキング』の放映終了から1か月が経過しましたが、アニメ公式サイトは元気です。現在は「Blu-ray BOX 4 【初回生産限定版】Blu-ray BOX4 封入特典キャラソン集」の全曲試聴動画が公開されていて、これは一見(聴)の価値あり! ぜひご覧ください。続編『SHAMAN KING FLOWERS』を意識した楽曲も含まれており、製作陣からは「まだだ、まだ終わらんよ!」といった意欲を感じます。
さて、本連載記事の第1回で、筆者は原作者・武井宏之先生の言葉を用いて「シャーマンキングの価値観は連載当時マイノリティだった」「現代ではそれが一般化していたので再び脚光を浴びた」と述べました。アニメ放映を終えた今、改めてそのことを振り返ってみたいと思います。
連載記事中ではさまざまな表現を使いましたが、『シャーマンキング』が総じて主張しているテーマは「自己を確立すること」だと言えます。他人のなかの自分という存在を考えたり、自分自身の気持ちと向き合い、時には壁を乗り越え「私はこういう人間だ」ということを自覚したりする。それにより、何事にも動じない強さや自信を持てるようになるという考えです。
麻倉葉、道蓮、ホロホロなどはシャーマンキングを目指す過程でその必要性に直面し、乗り越えたと思ったら不足だと気づかされる……といったことを繰り返して成長していきます。
ただ誤解してはならないのですが、「自己の確立」とは、人に認めてもらうことや一番になることとは違います。一般的には、すぐに自分を他人と比較する人や、他人の顔色をうかがって態度を決めすぎる人は、自己を確立しているとは言えません。この代表がハオです。
ですから彼は、テーマを体現する麻倉葉たちと対立する存在です。なお「ナンバーワン」と「オンリーワン」は本来、善悪や優劣で語ることではありませんが、バトルマンガのフォーマットを使ってオンリーワンの意義を表現するには対立が必要で、そのためハオには、ナンバーワンを目指す動機や手段などにさまざまな悪の要素が持たされています。
1998年の連載当時にマイノリティだった価値観とは、「ナンバーワンを目指すこと」が悪の側として描かれたことです。なぜそのようなアプローチになったのでしょうか? そこには当時の時代背景や、武井先生の体験・思いがありました。