『シン・ウルトラマン』が思い出させた、『幼年期の終わり』と『サイボーグ009』
1966年~67年にTBS系で全国放映された空想特撮シリーズ『ウルトラマン』は、その後も何度も再放送され、多くの子供たちが夢中になりました。『ウルトラマン』を観て育った庵野秀明氏と樋口真嗣監督が手を組んだ実写映画『シン・ウルトラマン』は、オリジナル作だけでなく、さまざまなSF作品のエッセンスを感じさせるものとなっています。
特撮ファンを歓喜させるオマージュの数々

企画・脚本を担当した庵野秀明氏と盟友・樋口真嗣監督とのタッグ作『シン・ウルトラマン』は2022年5月13日に劇場公開がスタートし、6月5日の時点で観客動員214万人、興行収入31.8億円を記録するヒット作となっています。1966年~67年にTV放映された『ウルトラマン』のリメイク作ですが、多くの特撮ドラマへのオマージュも感じさせることでも話題となっています。
オープニングから、『ウルトラQ』に登場したゴメス、ペギラ、パゴスなどの懐かしい怪獣たちが次々と姿を見せ、往年の特撮ファンを喜ばせています。オリジナル版『ウルトラマン』でも印象に残っていた「悪質宇宙人」メフィラスですが、今回はメフィラスの人間体を演じた山本耕史さんの慇懃無礼な悪役ぶりが注目を集めています。また、ウルトラマンに変身する「禍特対」の隊員・神永新二(斎藤工)とそのパートナーとなる浅見弘子(長澤まさみ)が心を通い合わせる様子は、『ウルトラセブン』のダンとアンヌの関係を彷彿させるものがあります。
新しくなったウルトラマンのデザインも見どころです。シン・ウルトラマンの胸にはカラータイマーはついておらず、代わりにラインカラーが変化するなど、オリジナル版の美術監督だった成田亨氏の意向を蘇らせた形となっています。予算やスケジュールの都合、技術的な問題などで、放送当時は叶わなかったスタッフの想いを『シン・ウルトラマン』は補完した作品となっています。
異文化に触れることで、人類は進化することに
円谷プロ制作の特撮ドラマだけでなく、さまざまなSF作品のエッセンスも感じることができます。地球よりもはるかに文明の進んだ宇宙人/外星人と接触したことで、地球は新しい時代を迎えることになります。こうした展開に、SF作家アーサー・C・クラークの代表作『幼年期の終わり』を連想したSFファンも少なくないようです。
1952年に発表された『幼年期の終わり』は、「オーバーロード」と呼ばれる異星人によって地球は平和裏に支配され、やがて地球人は新しい次元へと進化を遂げるという物語です。スタンリー・キューブリック監督は、アーサー・C・クラークを共同脚本に迎え、SF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』(1968年)を撮っています。
ウルトラマンと交流したことで、「禍特対」の隊員たちだけでなく、人類全体の歴史も大きく変わっていくはずです。科学的な進歩だけでなく、精神面も大きく変化していくのではないでしょうか。