「金ロー」で『時をかける少女』放映 失敗を繰り返す「細田ヒロイン」の原点
失敗を繰り返す細田作品の主人公たち
ふとしたことから、真琴は自分には過去に戻ることができる「タイムリープ能力」が備わっていることに気づきます。時間を自在に操ることができれば、どんなことも可能になります。ところが真琴がやることはちっちゃなことばかりです。食べそびれたプリンを食べ、カラオケボックスでエンドレスに歌い続ける真琴でした。
もっと有意義なことに能力を使えばいいのに。「金ロー」では3度目の放映となるアニメ版『時かけ』をすでに視聴しているファンは、そう思うでしょう。さらに真琴は、「俺と付き合えば?」という千昭からの交際の申し込みを、過去に戻り、なかったことにしてしまいます。タイムリープの使い方も含め、真琴は過ちを何度も犯してしまいます。
失敗を重ねる真琴の姿は、その後の細田作品の主人公たちに共通するものとなっています。次作『サマーウォーズ』(2009年)では健二が招いたトラブルが原因となって、仮想世界だけでなく現実世界もパニックに陥ります。大ヒット作『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)では花が学生結婚したことから、過酷な運命が始まります。
主人公たちの判断は、すぐには正解には結びつきません。失敗し、落ち込みながらも、どうすれば前に進めるかを、細田作品の主人公たちは模索し続けます。
タイムリープできなくても、未来は変えられる
失敗を繰り返す主人公像は、細田監督自身の姿ではないでしょうか。細田監督は金沢美術工芸大学を卒業後、子供の頃から憧れていた宮崎駿監督のいる「スタジオジブリ」の研修生採用試験を受けていますが、その結果は不採用でした。
東映動画でキャリアを磨いた細田監督は、「スタジオジブリ」から『ハウルの動く城』(2004年)の監督オファーを受け、ジブリに出向することになります。しかし、このときの細田監督は、ジブリのベテランスタッフたちに頭を下げることができなかったそうです。その結果、孤立してしまい、途中降板の憂き目に遭っています。
捲土重来を期して挑んだのが、やはり細田監督が子供の頃から大好きだった筒井康隆作品の初のアニメ化となる『時をかける少女』でした。失敗を何度も何度も繰り返し、ボロボロに傷ついても、それでも前へ進もうとする真琴は、細田監督自身の分身であり、決意表明でもあったように思います。
物語後半、タイムリープ能力を失ってしまう真琴ですが、走ることをやめません。タイムリープ能力がなくても、未来を変えることはできると分かったからです。
未来とは今である。
そのことに気づいた真琴は、その瞬間、少女から大人へと鮮やかに跳躍することになります。
失敗しても、そこから新しい道を細田作品の主人公たちは切り開いていくことになります。真琴をはじめとする細田作品の主人公やヒロインたちのポジティブさが、多くの人の共感を呼んでいるようです。
(長野辰次)