アニメブームの影で、深刻な「人材不足」 業界改善のための文化庁事業「あにめのたね」とは?【PR】
日本のアニメ産業は好調で、もはやサブカルチャーではなく日本文化の中心となったようにも感じられます。
2021年のアニメ産業市場は、過去最高の2兆7422億円を記録(※1)。2022年は『劇場版 呪術廻戦 0』(前年公開)や『ONE PIECE FILM RED』など、興行収入100億円を超える映画作品が複数あり、興行ランキング上位をアニメ作品が席巻したことも記憶に新しいです。
海外の興行収入ランクの上位にもアニメ映画が入ることは珍しくなくなってきていますし、動画配信でも日本アニメは多くの人に視聴されるようになっていることから、今や日本アニメは世界的なコンテンツとして認識されているといえるでしょう。
しかし一方で、アニメ作品の需要の高まりによって、国内アニメ業界では、企画の数が制作会社のキャパシティを上回る状況が続いており、どこのスタジオも優秀なスタッフの取り合いで、人材確保が困難となっている……という声もあがっています。
こうした現状に対し、多くのアニメ制作会社が人材育成に力を入れるなかで、文化庁は13年前からアニメ業界における人材育成プログラムを実施し続けてきました。
今回、アニメ産業・文化のさらなる改善と発展のために必要なことは何なのかを探るため、アニメ人材育成事業を主催する文化庁と、クリエイターの立場から本事業に関わり、所属するアニメスタジオ・プロダクションI.Gでも育成に注力する後藤隆幸さんに話を聞きました。
[取材・文=杉本穂高/編集=佐藤勝、沖本茂義/撮影=小原聡太、編集部]
文化庁のアニメ人材育成事業「あにめのたね」とは
現在、文化庁がアニメ人材育成のために行っているのが「アニメーション人材育成調査研究事業」、通称「あにめのたね」です。
そもそも、なぜ文化庁は、アニメ人材育成事業を始めたのでしょうか。
「アニメは日本の誇るべき文化で、その存在感はコンテンツ産業のなかでも無視できない大きなものになっています。しかし、現場ではデジタル化への対応や、海外に制作工程を頼らざるを得ないといった環境変化のなかで、これまでのように現場で教えながら育成することが難しくなっている……という声が出てきました。国として、そうした状況を改善するために本事業はスタートしました」(文化庁)
国全体としても、人びとのアニメに対する印象が好意的なものへと変化してきたことがその背景にある、といいます。
本事業は、アニメーション文化の将来を担う優れた人材の育成方法について実践的な調査研究を行い、その成果を普及・推進することで、国内アニメーション文化の向上に貢献することを目的として行われています。
具体的に始動したのは2010年度からで、「若手アニメーター育成事業」としてスタートし、「アニメミライ」「あにめたまご」といった通称とともに少しずつ形態を変えてきました。2021年度からは「あにめのたね」として、若手アニメーターの育成のみならず、他の職種の育成にも裾野を広げ今日に至っています。
本事業は具体的に、3つの柱から成っています。
1:作品の制作を通じた技術継承プログラム
2:業界就業者を対象にした技術向上教育プログラム
3:業界志願者を対象とした基礎教育プログラム
このなかで中心となっているのは、「作品の制作を通じた技術継承プログラム」です。これは、毎年4つのアニメスタジオがそれぞれの育成プランにのっとり、OJT形式でベテラン・中堅スタッフが若手を指導する形で、1本のアニメ作品を完成させる実践形式の内容です。
応募のなかから選ばれた4つのスタジオには、文化庁から制作予算が提供されます。日本の省庁のなかで、アニメスタジオでOJT形式の育成事業を行うのは珍しいことだそうです。