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『聖闘士星矢』「最も神に近い男」シャカは、なぜ教皇の正体を見抜けなかったのか

ギリシャ神話の女神アテナに従い、地上を守る「聖闘士(セイント)」の活躍を描く人気マンガ『聖闘士星矢』に登場する聖闘士のなかでも、最強を誇る黄金聖闘士「乙女座のシャカ」は、人の「善悪を見抜く力」を持っているのに、悪の教皇の正体を見抜けませんでした。それはなぜなのでしょうか。

シャカがサガの邪悪を見抜けない理由は?

「D.D.PANORAMATION 聖闘士星矢 バルゴシャカ -処女宮- 約100mm ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア」(BANDAI SPIRITS)
「D.D.PANORAMATION 聖闘士星矢 バルゴシャカ -処女宮- 約100mm ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア」(BANDAI SPIRITS)

 1986年に連載開始され、2023年現在までに5000万部を超える大ヒットを記録した少年マンガ『聖闘士星矢』には、星座をモチーフとした鎧「聖衣(クロス)」をまとったさまざまな聖闘士(セイント)が登場しました。 その聖闘士でも最強を誇るのが、黄金聖衣をまとう12人の黄金聖闘士です。彼らは光速の動きを持つ、圧倒的実力者として君臨しています。

 さらにその黄金聖闘士でも「最強」と言われることが多い「乙女座のシャカ」は、鳳凰星座の一輝が人間の持つ六感全てを失うことで高めた小宇宙(コスモ)を自爆という形で爆発させても、「時空の捻じ曲がったところに落ちた」だけで、ほぼ無傷という無敵ぶりを見せつけました。しかもシャカは、「人の善悪を見抜く能力」を持っており、かつてデスクイーン島で出会った一輝の心の底に正義があることを見抜いて見逃したこともあります。その実力で「もっとも神に近い男」とも言われていました。

 ちなみに、そのシャカが守る処女宮は、ギリシャの聖域(サンクチュアリ)に存在します。聖域を統治していたのは、13年前に真の教皇シオンを殺害して、教皇に成り済ましていた簒奪者・黄金聖闘士のサガです。サガは神のように人びとに慕われていましたが、二重人格者であり、悪の心が表面化している時は、聖闘士が守るべき存在の女神アテナも殺そうとする邪悪な存在です。

 実際、教皇の正体に気付いた雑兵が殺されている描写もあります。また、教皇の邪悪を知った黄金聖闘士アイオリアが、教皇の間に現れ、サガに戦いを挑んだ時に、シャカは教皇の側に立ってアイオリアと戦っていました。シャカ対アイオリアが互角の勝負になっている時に、サガは相手の心を支配する「幻朧魔皇拳」を放ち、アイオリアの洗脳に成功もしています。

 1対1の戦いを是とする聖闘士の価値観としては、サガが1対1に介入して、アイオリアを洗脳した行動は「卑怯」にも思えますが(例えば、アテナエクスクラメーションは「3人で放つから卑怯」と言われていました)、それでもシャカは「教皇は正義の存在」として、疑うことはありませんでした。

 なお、「十二宮編」の最後で、サガが正体を現してもなお、シャカは「この13年間、サガが正体の教皇からは、一片の邪悪も感じなかったのに……」と驚いている様子だったので、教皇を疑うことは全くなかったのだろうと感じます。

 さて、シャカはなぜ「善悪を見抜く力」で、偽教皇サガの邪悪を見抜けなかったのでしょうか。その答えは、邪悪となっていたサガが、「アテナの盾の光」を受けたときの描写にあると考えられます。

 聖なる光を受けたサガの身体から、苦悶の声を上げて、邪悪な魂のようなものが抜け出ている描写がなされていました。邪悪な魂が抜けたサガは、優しく清らかな表情に戻っており、アテナである沙織の目の前で罪を償うために自害するほどで、サガの邪悪な行動は、この邪悪の魂の影響なのだということが分かります。

 サガがただの「二重人格」なら、魂が抜けることはないでしょうから、サガ本人とは別の魂が邪悪なサガを動かしていたとも考えられるのではないでしょうか。邪悪なサガが「サガ本来の魂」ではないのであれば、シャカが邪悪を見抜けなかったことは理解できます。物事の真理が見えるシャカにとっても、教皇として振る舞うサガ本人の魂しか見えず、偽りの存在である邪悪のサガは感知できなかったということです。

 感知できないどころか、シャカには「神のように慕われていた」本物のサガの魂は清廉潔白な存在と感じられ、「アテナは誰にもお会いにならん」など、不自然な行動を取る教皇を擁護する方に、精神が働いたのでしょう(アテナの小宇宙を感じたことがある者は、天秤座の老師だけですから「アテナは神なので人間の小宇宙とは違い、お前たちでは感知できない」というような説明をしていたとも考えられます)。

 なお、「ハーデス編」で敵として登場した黄金聖闘士のサガ、カミュ、シュラに対して、シャカはハーデスからの監視がついていることを見抜いて倒し「本心を話せ」と求めるも、サガが「アテナの首を取る」と発言し、戦いとなりました。「善」の感知をしていたので、「本心を」と聞いたと考えられます。つまり「善悪を見抜く力」は、心のなかが分かるわけではなく、魂の色が見えるのでしょう。実際、サガたちの真意は邪悪ではありませんでした。

 ちなみにシャカは小宇宙を高めるために、常に目を閉じていました。いかに小宇宙を高めるためとはいえ、シャカの20歳という年齢を考えるなら「かなりの変わり者」であるとも考えられます。そして一輝との戦いで「初めて迷いが生じた」とも言っていますから、それほど世間智はないのかもしれません。

 邪悪のサガの側もまた、自身の正体を感知した者がいた際には幻朧魔皇拳で洗脳し、シャカたち黄金聖闘士が任務を受けて聖域を離れた時に始末していたのでしょう。そうしたことの積み重ねで、「教皇が邪悪なわけがない」というシャカの思いこみが強くなったとも考えられます。

(安藤昌季)

【画像】神々しすぎる! 「神聖衣」を付けて黄金の羽を生やしたシャカを見る(3枚)

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