『Zガンダム』もしカミーユが「精神崩壊」しなかったら シャアはアクシズ落とさなかった?
『機動戦士ガンダム』の続編アニメとして1985年に放映開始された『機動戦士Zガンダム』。主人公カミーユが精神崩壊するというラストは衝撃で、2005年より公開された劇場三部作では、結末が変更されています。カミーユが正気でグリプス戦役を終えた場合、歴史への影響はどのようなものだったのか、考察します。
『ZZ』もまったく違う作品になっていた?
人気アニメ『機動戦士ガンダム』の続編として、1985年に放映開始された『機動戦士Zガンダム』。エゥーゴ、ティターンズ、アクシズの3勢力(地球連邦も含めるなら4勢力)による三つ巴の複雑な抗争、主人公・カミーユのナーバスな性格や、精神崩壊してしまう結末など、衝撃的な作品でした。
2005年から公開された『機動戦士Zガンダム』の劇場版三部作では、カミーユの精神崩壊という結末が変更され、話題となりました。
なお、カミーユが正気のまま物語を終わると、『機動戦士Zガンダム』の続編である『機動戦士ガンダムZZ』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の前提が崩壊するように感じます。『Zガンダム』は、前作の人気キャラクターであるシャア・アズナブルが「もうひとりの主人公」として、物語を大きく動かしているからです。
カミーユは、クワトロ・バジーナを名乗り政治に関わることから目を背けるシャアに「僕はもう、貴方のことをクワトロ大尉とは呼びませんよ。貴方は、シャア・アズナブルに戻らなくてはならないんです」と言い、シャアの「ダカール演説」をさせたキーキャラクターです。
そしてシャアはカミーユに「一昔前の人々は、宇宙にこそ希望の大地があると信じた。地球のエリートを憎むより、その方がよほど建設的だと考えたのだ。地球の重力を振り切った時、人は新たなセンスを身につけた。それがニュータイプの開花へと繋がった。そういう意味では確かに宇宙に希望はあったのだ」と語ります。
カミーユは「よくわかる話です。僕もその希望を見つけます」とシャアに賛同します。
シャアはグリプス戦役の最終決戦で、ハマーンに「私が手を下さなくても、ニュータイプへの覚醒で人類は変わる。その時を待つ」とも言っており、カミーユはその発言に同調しつつも「本当に排除しなければならないのは、地球の重力に魂を引かれた人間たちだろう! けどその為に大勢の人間が死ぬなんて、間違っている!」と言い放ちます。
その後、カミーユを失ったシャアは『逆襲のシャア』で、地球に宇宙要塞アクシズを落として寒冷化させ、強制的に全人類を宇宙移民させようとします。
これは『Zガンダム』のシャアと異なる行動原理です。『Z』の時点では「地球のエリートを憎むより、宇宙に希望を抱く方が建設的」で「ニュータイプへの開花を待つ」というスタンスであり、カミーユの「(地球の重力に魂を引かれた人間を排除するにしても)その為に大勢の人間が死ぬなんて、間違っている」という意見も否定していません。
つまりシャアが抱いた「正しいニュータイプへの希望」は、カミーユであり、カミーユが精神崩壊したことで絶望し「地球のエリートを憎み、多くの人が死んだとしても、地球の重力に魂を引かれた権力者を排除する」という方向に舵を切ったということです(カミーユがいれば、シャアがこの方向に行こうとしても修正されたでしょう)。
なお、カミーユが精神崩壊しなかった場合、シャアは「ネオ・ジオン総帥として地球を粛清する」という極端な手段を取らなかった可能性が高いです。
『Zガンダム』の最後で、ティターンズはシロッコの死によって壊滅しましたが、その勢力は全滅したわけではなく、ハマーンのアクシズ(ネオ・ジオン)は、多くの戦力を残しています。
カミーユが健在なら、シャアはエゥーゴ代表を投げ出して、ネオ・ジオンを作ろうとはしなかったでしょう(旧連邦系勢力が離反しなければ、ですが)。むしろ、アーガマを中心としてエゥーゴの戦力を再建し「ネオ・ジオンの脅威から地球を守ることで、地球連邦政府への影響力を行使する」政治姿勢をとったものと考えられます。
なんであれ、どうあっても『ZZ』第1話の「傷ついたアーガマが、スペースコロニー・シャングリラに入港し、一攫千金を目論むジャンク屋の少年・ジュドーたちがZガンダムを盗もうとしてくる」という展開は変わりません。
『ZZ』ではブライトの尽力もあって、ジュドーたちは大人に反発しつつも、徐々にエゥーゴの一員となっていきますが、シャアとカミーユが健在なのであれば、ブライトと共に、ジュドーたちをよりうまく使ったのではないかと考えられます。
また、シャアがエゥーゴ代表を続けている状態では「実質アーガマだけが戦っている」という状況にはならず、地球からアムロも呼び寄せて、強力な軍事力を構築したでしょう。
エゥーゴが強大化することで、本編で発生したネオ・ジオン分裂は避けられる可能性が高いですが、それでもネオ・ジオンが、シャア、アムロ、カミーユ、ジュドーが揃ったエゥーゴと戦うのは困難と言えます。シャアは、ハマーンの正当性を崩壊させるために、史実で実行したミネバ・ザビの拉致作戦も行うでしょうし。
ネオ・ジオンを早期に崩壊させたシャアは、強大な軍事力を背景として地球連邦政府に対して「宇宙移民推進法」のような法律を押し付け、政治的目的をある程度、果たしたのではないでしょうか。
カミーユとは、そういう意味でキーキャラクターであり、正気を保つことで、ストーリーが大きく動く可能性があると思います。ただ、カミーユが『Z』で退場しないと『逆襲のシャア』の大前提が成立しなくなることもあり、『劇場版ZZ』が今後も作られないであろうことは、残念です。
(安藤昌季)