トラブル生じやすい「原作改変」問題 アニメ業界で起こっている「大きな変化」とは?
アニメはなぜ「原作重視」の流れになったのか?
そんな時代もありましたが、近年のアニメは「原作重視」の流れが強くなっています。いつこの流れが始まったのかといえば、おおよそ2000年代後半となります。それ以前にも『マスター・キートン』や『蟲師』、『ブラックラグーン』など原作を重視する作品は存在していましたが、大きな流れとはなりませんでした。
流れを作り出した作品は、OAD(コミック限定版ディスク)として製作された『魔法先生ネギま!』です。赤松健先生原作の『魔法先生ネギま!』は2回のTVアニメ化を果たしましたが、どちらも原作とは異なる展開で、ファンからは原作そのままの「ネギま!」が見たいという要望がたびたび出てきていました。
原作そのままでやりたいと考えた際に、困るのが脚本家選びです。脚本家がクリエイティビティを発揮しようとして原作を改変し、〆切ギリギリまで提出を拒むようなことがあれば、思ったようには作れません。そこで選ばれたのが書籍の編集者でした。文章の扱いに慣れた編集者に脚本の作り方を学ばせ、脚本家として起用したのです。原作をもとに脚本を作るのは脚本家ではなく「脚色家」という職業になり、アメリカでは別の職業として考えられていますが、日本では特に分化されてはいません。
このやり方は成功をおさめ、その後、『化物語』や『ソードアートオンライン』といった作品もほぼ同じやり方を踏襲し、大ヒットを連発しました。こうして「原作に忠実なアニメ」は需要も成功率も高いことが認識され、その後多くの作品が原作を重視した作りになっていったのです。
もちろんトラブルが発生することはあり、原作者がアニメスタッフをないがしろにした結果、紆余曲折の果てにアニメの企画がなくなった……という事例も耳にしています。それでも筆者のゲーム仲間の作家さんたちが近年アニメ化を果たした際には、「文句のつけようもない脚本を出していただいた」「監督とはいつも映画の話をしてる」と、原作サイドと制作サイドが良好な関係を築いている話を聞いています。
クリエイターとして、お互いに対するリスペクトを忘れない。それだけで、トラブルの大半は回避できるのではないでしょうか。
(早川清一朗)