前代未聞「未完成です」 25年前の崩壊アニメ映画『GUNDRESS』の上映が止められなかった謎
25年前、アニメ映画『GUNDRESS(ガンドレス)』は、未完成のまま上映に踏み切ることとなりました。線だけのロボットに色が単色など作画崩壊というレベルではなく、音声も映像と噛み合っていない状態でした。なぜ、誰も上映を止めることができなかったのでしょうか?
映画館に貼り紙「お詫びとお断り」
制作がギリギリで、なんとか公開日に間に合ったアニメ映画は、『宇宙戦艦ヤマト・完結編』『火垂るの墓』『機動戦士ガンダムF91』など、多数あります。しかし、公開直前に「未完成です」と公言された作品があったことをご存じでしょうか? いまから25年前、1999年3月公開のアニメ映画『GUNDRESS(ガンドレス)』で珍事は起きました。なぜ未完成のまま、映画は公開されたのでしょうか?
1999年3月20日の一般、スポーツ新聞に仰天の記事が出ました。各社は、「未完成のまま、本日映画公開へ。『GUNDRESS』は約90分の本編に、線画だけの部分やセリフ、効果音が動画と合っていないなど未完成部分が100カット以上あるが、そのまま封切り」などと報じました。
公開初日、全国約40の映画館では、来場者に1枚のプリント用紙が配られました。「残念ながら不完全な形で公開することを納得の上で、ご入場ください」、「後日(8月頃)、完全版ビデオを送ることでお詫びと代えさせて下さい」、という内容でした。観たくない人には前売り券代の返金が行われ、当日の舞台挨拶は中止され、ドタバタのなかで上映されました。いったいどんな出来だったのでしょう?
映画が始まり、絵がヘタ、というレベルの低さがすぐに分かります。3分もすると動きがぎこちなくなり、無着色部分がポツポツとあり、スタッフの指紋やゴミがハッキリ写ります。線だけで描かれた人物、色が塗ってあっても雑で単色のみ……と、作画が全体的に子供のお絵描きレベルに落ちていきます。さらに、口の動きが止まっているのにセリフが出る、銃を撃って数秒後に音が出るなど、音声もおかしくなります。
「未完成であることを理解して入場した」とはいえ、想像以上の「崩壊状態」に、あきれて劇場の席を立つ人が続出してしまいます。なかには、うわさを聞いて「逆に観たい」という来場者や、ホームビデオで撮影する違反者もたくさんいたといいます。結局、ほとんどの映画館は2週間ほどで上映を打ち切りました。
●制作会社たらい回し
映画『GUNDRESS』は、日活、東映など6社の出資から製作委員会を立ち上げて始まりました。予算は4億円です。ところがアニメ制作を依頼した「サンクチュアリ」は経営難で、2億円弱で下請けの「スタジオジュニオ」へ丸投げします。しかし、スタジオジュニオも経営難で、海外の会社へセル画制作を発注します。こうなると作業の確認や連絡、管理がずさんになります。負のスパイラルが巻き起こっていたわけです。
上層部が、映画が未完成と知ったのはなんと公開3日前で、2日前に試写で観て事態の深刻さを痛感したといいます。協議した結果、上映中止は多大な混乱とトラブルを招くと考え、「未完成での配給」に踏み切ります。そして、入場者には後日、完成ビデオを送るという対策でフォローしたのでした。