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『Zガンダム』勝者のエゥーゴが瞬時に消滅したのはなぜ? 連邦視点で見ると面白い「宇宙世紀」

ティターンズは消滅したが、エゥーゴも大打撃を受ける

Zガンダムを盗もうとしたことがきっかけでエゥーゴに参加することになる、『ZZ』の主人公・ジャンク屋の少年「ジュドー」。画像は『機動戦士ガンダムZZ』DVD第3巻(バンダイナムコフィルムワークス)
Zガンダムを盗もうとしたことがきっかけでエゥーゴに参加することになる、『ZZ』の主人公・ジャンク屋の少年「ジュドー」。画像は『機動戦士ガンダムZZ』DVD第3巻(バンダイナムコフィルムワークス)

 一年戦争は「総人口の半数を死に至らしめた」最悪の戦争です。そしてそのような戦争を仕掛けたジオン軍事力の多くが「ジオン残党」として残っている状況でした。一年戦争のコロニー落としや地球上での戦闘で、地球上の生活環境が破壊され、多くの難民が発生し、大規模環境破壊が発生したことは確実です。

 一年戦争の大義名分として「一部の地球居住者が特権階級となるために、連邦政府は宇宙移民を停止した」ことも掲げられましたから、連邦政府としては「スペースコロニーを再建し、地球居住者の大半をサイドに移住させ、批判を抑えるとともに難民対策とする」が対策と考え、コロニーを再建したと考えられます。もちろん連邦軍と結びついた政治家は「そんな対策は手ぬるい。ジオン残党を徹底的に撃滅すれば、戦乱は収まる」として、コロニー再建と相反する軍事力増強を主張したでしょう。

 結果として、多額の費用がかかるコロニー再建と軍事力増強の双方が進められた結果、少数の軍事力でも成果を上げられる「核兵器搭載ガンダム」の開発も行われたのだと考えられます。これは「戦時条約である南極条約はジオン降伏で消滅したから、ジオン残党は核兵器使用やコロニー落としをしてくる」と考えてのことでしょうし、実際『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』では、ガンダム試作2号機が奪取されたからとはいえ、実際にそのような結果となったわけです。

 事故とされた北米へのコロニー落としですが、連邦政府や連邦軍人で有力議員である「ジャミトフ・ハイマン」らは真実を知っているわけですから「軍事力増強によるジオン弾圧」の方向に進むしかありません。それがジオン狩り特殊部隊「ティターンズ」の結成でしょう。

 先述したように、甚大な戦争被害からの回復とコロニー再建の最中に、大規模な軍事力増強は無理と考えられます。ティターンズもかなり制限された予算で成果を上げるしかなく、それを可能とするために兵力ではなく、強力な権限と特権を与えられたのでしょう。その結果、ティターンズは示威行動を重視し、民間人虐殺を行います。

 それが「弾圧では解決しない。アースノイドとスペースノイドは共存できる。地球環境を保全しつつ、宇宙移民を進めるべきだ」と考える、従来路線の巻き返しを可能とし、「ブレックス・フォーラ」准将がエゥーゴを結成。そこに穏健派のジオン残党も加わったのでしょう。エゥーゴはティターンズと内戦し、さらにネオ・ジオンとの戦いにも勝利しますが、これはつまり「地球連邦の政策の前提が破壊された」とも見ることができます。

 乏しい予算をやりくりしながら進めた「軍事力を増強してのジオン弾圧路線」は、その中核となるティターンズが消滅し、エゥーゴも大打撃を受け、実行困難となりました。地球連邦政府としては「勝利したエゥーゴもネオ・ジオンによる連邦議会制圧やダブリンへのコロニー落としを防げなかった。もはや軍事力でのジオン残党打倒は困難であり、融和政策しかない」として、ネオ・ジオンへのサイド3譲渡を図ったのでしょう。ところがネオ・ジオンが分裂、内戦して自壊してしまい、「ジオン・ズム・ダイクン」の遺児を宣言した「シャア・アズナブル」は行方不明。エゥーゴが消滅したのはこうした情勢下です。

 一年戦争から9年しか経っていないのに、北米とダブリンにコロニーが落ち、再建した軍事力も壊滅。軍の秩序は民間人である「ジュドー・アーシタ」が、エゥーゴの最高機密兵器「ZZガンダム」を持って木星に向かえるほど、乱れていました。ジュドーは『ZZ』冒頭で「Zガンダム」を盗んで売ろうとしていますが、これはつまり「少年でも兵器を売る当てがある」という描写ですから、連邦軍の軍紀は乱れ切っていたと言えます。

 強硬派の連邦軍人はティターンズの壊滅と、ネオ・ジオンの連邦議会制圧&コロニー落とし成功で発言力を失い、地球と宇宙の融和を説いたブレックスの融和的な路線も、ネオ・ジオンの自壊により「交渉すべき政府がなくなった」ことで頓挫したのでしょう。つまりシャアはこの時点で「ネオ・ジオンを再建すれば、ハマーン・カーンが連邦に認めさせたサイド3譲渡などの条約が継続できる」と考えて、ネオ・ジオン総統になろうとしたとも考えられます(そして、ハマーンの結んだ条約が継承されないなどの問題が起こり、シャアは連邦政府への不信感をより強めていくのでしょう)。

 この時、ジャミトフ、ブレックスといった「政治力のある軍人」はすでに死亡しており、政治に興味がないブライトたちが連邦軍を立て直すしかない。それが「ロンド・ベル隊」ですから「エゥーゴは解散。世間にはティターンズとは違う穏健路線をアピールし、軍事力も最小限しか持たない」という劇中描写になることは自然だと思えます。軍事力でできるだけ解決しないという政府の政治的意志表示が「軍事力の象徴であるガンダムタイプを配備しません。既存のガンダムも封印します」なのでしょう。

 そして世論は「戦争などもうやめてくれ。連邦軍にはジオン残党の打倒など無理だし、スペースノイドの権利を認めて、軍備縮小を」だったに違いありません。

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、連邦政府はシャアの降伏に騙されて、地球にアクシズを落とされそうになりますが「軍事力での解決は経済的にも、世論としても無理で、何とか融和路線で解決したい」が交渉の前提にあるのであれば、政府が無能とは言い切れません。

 地球連邦政府からの視点で見ると、また作品が違って見えるのが、宇宙世紀の面白いところです。「グレミーの反乱」がきっかけの「ハマーン」戦死は、エゥーゴ消滅など、後の歴史に大きな影響を与えていたのかもしれません。

(安藤昌季)

【画像】え…エゥーゴの制服ってけしからんな… コチラが「ナイスくびれ!」なエマさんの姿です(6枚)

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