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『ザンボット3』“皆殺しの富野”は誤解だった? 幻の自筆原稿が語る「衝撃ラスト」の真意

「皆殺しの富野」の異名に待った! ザンボットに込めた監督の人間賛歌。

半世紀ぶりに発見された「富野監督の直筆文章」

『無敵超人ザンボット3』DVDメモリアルボックス(バンダイナムコフィルムワークス)
『無敵超人ザンボット3』DVDメモリアルボックス(バンダイナムコフィルムワークス)

 最終回に登場キャラクターが次々と死んでゆく……。
『伝説巨神イデオン』で、舞台である宇宙ごと葬ってしまうという驚きの終焉を描いたことが注目され、『無敵超人ザンボット3』『聖戦士ダンバイン』でもメインキャラクターはことごとく死亡、さらには初監督作品『海のトリトン』で、実は主人公側が敵側を滅ぼしていたというショッキングな善悪の逆転劇を見せたのが、『機動戦士ガンダム』で著名な富野由悠季監督です。

 とにかく富野作品は人が死ぬ。そんなイメージから、いつしか「皆殺しのトミノ」などという、いささか不名誉?な称号をもらってしまった富野監督ですが、いまから半世紀近く前、富野監督が何を考えていたのかがよく分かる自筆原稿があります。

「かいせつ ザンボット3」というタイトルがついた、400字詰め原稿用紙11枚ほどに黒のボールペンで書かれた文章です。

「原作 監督」と一度書いてから、それをバッテンで消してあるので、「これはあくまでも富野個人として」という意味であることがうかがえます。

 最後に入っている日付が「1978.5,20」。まさに『ザンボット』の本放送が終わって間のない、まだ監督30代の文書です。

 5000字近い文章ですし、ご本人からあとで叱られないように、中身についてはほぼ割愛しますが、なぜ富野監督が『ザンボット』の最後を当時あのように描いたかの秘密、そして想いが如実に語られてる部分だけ、ご紹介しておきましょう。

「(前略)(戦争の理論を)描くためとはいいながらも残酷なシチュエーションは必要だったのだろうか? 個人にのしかかる外部世界。これを語らずしてザンボットの終幕はあり得ないのです。なぜならばあの事件(人間爆弾)がなければ、神ファミリィの宇宙行きはもっと遅れていて(中略)外の人によって突きつけられた残酷な状況を一日でも早く解決させたかったがために、ファミリィは一丸とならざるを得なかったのです。(中略)ミチは、アキの分も幸福にならなければならないと思い、香月や勝平、その他の生き残った人々は、失敗を許されぬ第二の人生を歩むことを決意させられます。それは義務なのです。死んだ人々に対する償いなのです。同時にそれが人間の希望であり、生への力なのです。ラスト・ショットで目覚めてゆく勝平。それは、明日への人生を見ようとする目覚めなのです。それをミチも香月も、他のあらゆる人々も見守っている。それが人間の暖かい思いやりと信じて、ザンボットは終わってゆきました。始まりとして……。」(※丸括弧内以外は原文のまま)

 これが全文の結びとなっています。

『ザンボット』では、メインキャラの恵子とアキ以外の女性や子供は地球に帰還させ、次世代の生を約束します。なにより、最後のシーンで主人公・勝平に駆け寄る人々が「明日への目覚めを見守る暖かな人々」であったことが明言されているのです。

 なんとなく『ザンボット』の見方が変わりませんか?

 当然ながら『イデオン』や『ダンバイン』より前の監督の心情ですから、この後、監督の演出論のなかで人の「死」の意味がどのようになっていったのかは分かりません。しかし、第二次世界大戦を肌で知っている監督の世代の方々が、戦火のなかで失われていったたくさんの命の意味を、どうやったら未来につなげていけるのかを、作品を通して描こうとしていた心根が、私には見える気がします。

 この原稿、実は、当時何かの理由で個人的に監督にお願いして書いて頂いたものだったはずなのですが、そのままファイルされてすっかり忘れ去られ、つい先日、自室の奥からひょっこりと発掘されたのです。

 冒頭に「風間君へ」というコメントがついているので、私宛だったことは間違いありません。しかし、これほど確かな「証言」はない証拠ともいえます。

 監督ご本人も多分忘れていらっしゃるでしょうから、遠からずお話しして、お許し頂けるようなら、全文をいつかどこかでご紹介したいなあと密かに思っている次第です。

(風間洋(河原よしえ))

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。

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