「ガンダムの女性主人公に違和感」←非現実的っていうけど…女性パイロットの現状は?
『ジークアクス』『水星の魔女』と、「ガンダム」シリーズのTVアニメ作品は女性パイロットの主人公が続きました。『復讐のレクイエム』も主人公は女性パイロットです。現実世界においても女性パイロットはめずらしいものではなくなっているようです。
「女性パイロットはリアルじゃない」←まちがい
![『水星の魔女』『ジークアクス』『復讐のレクイエム』等、女性主人公が続く「ガンダム」シリーズ。画像は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』特報映像より (C)創通・サンライズ](https://magmix.jp/wp-content/uploads/2025/01/250123-gqux-01-300x169.jpg)
「ガンダムの主人公が女性であることに違和感を覚えます。兵士は力も体力もある男性の方が多いので、男性のほうがリアルだと思います。なぜ女性を主人公にするのでしょうか」
このような質問が大手質問投稿サイトに投稿され、「視聴者に媚びを売るため」「スレッタ(『機動戦士ガンダム 水星の魔女』主人公)もマチュ(『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』主人公)も、女子学生であって兵士じゃない」「パイロットは小柄な人が向いている」といった、さまざまな観点からの回答が寄せられていました。
「ガンダムの主人公」といえば、おおむね「ガンダム」と称されるモビルスーツ(MS)の「パイロット」で、現実世界では戦闘機パイロットのようなポジションでしょうか。そして、確かに「兵士」は、現実世界では男性の方が多いというのが現状です。では、現実世界の「戦闘機パイロット」はどうなのでしょうか。
これについて、航空軍事記者の関賢太郎さんに解説していただきました。
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現実の「戦闘機パイロット」は、一般的に「士官」以上の階級であり、「兵士」ではありません。航空自衛隊でいえば三等空尉以上が相当します(旧日本軍などで、曹や准尉といった下士官が戦闘機パイロットに就くなど、例外はあります)。
これまで戦闘機パイロットの募集は男性に限定されることが多く、女性に門戸が開かれたのは比較的、最近のことです。例えば、日本の航空自衛隊では長らく女性の戦闘機パイロットを認めていませんでしたが、2015年に制度が改正され、女性も戦闘機パイロットとして活躍できるようになり、現在では複数の女性パイロットが存在します。アメリカ空軍においても、はじめて女性戦闘機パイロットが誕生したのは1993年と、比較的最近のことでした。
しかしながら、現在でも戦闘機パイロットの性別は圧倒的に男性が多いことは事実です。これは、そもそも志願する絶対数が少ないことに原因があると考えられます。女性がパイロットに不向きだという科学的根拠は存在しないものの、いくつかの要因が影響を与えていることは事実であるかもしれません。
例えば、航空自衛隊の戦闘機パイロットの身長制限は158cm以上とされており、これは日本人成人女性の平均身長にほぼ等しいのです。つまり女性の半分が努力では改善できない理由によって排除されてしまっています。
一方で、G(重力加速度)に対する耐性や反応速度、空間認識能力など、パイロットとして必要な能力については男女間の大きな差はないと考えられます。
歴史を振り返ると、女性の戦闘機パイロットが戦場で顕著な活躍を見せた例はいくつか存在します。もっとも有名な例のひとつが、ソ連(当時)の女性エースパイロット、リディア・リトヴァクです。
彼女は第二次世界大戦中に撃墜数12機を記録し、「白い百合」として知られました。平均的なパイロットの撃墜数は「ゼロ」ですから、これは、当時の男性パイロットと比べても圧倒的に優れた戦果だといえ、女性においても戦闘機パイロットとして優れた能力を持つ者は存在することを証明しています。
また、特に優れた能力が求められる宇宙飛行士においても、いまでは女性は珍しくなくなっています。宇宙飛行士は高度な訓練を受け、厳しい環境での作業を強いられますが、女性も男性と同等の適性を示しています。これを考慮すれば、MSパイロットとして女性が活躍することに、何ら不思議はないといえるでしょう。
誤解されやすいですが、女性戦闘機パイロットや宇宙飛行士は「女性枠」として採用されたのではありません。男女無関係な対等な競争において優れた能力を持っていると認められた結果、パイロットになったのです。「女性が戦闘機パイロットとして活躍できるかどうか」という議論は、すでに過去のものです。
(関賢太郎)