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原作はわずか3話のみ! 衝撃の実写化『翔んで埼玉』はなぜ大成功した?

実写映画が2作合わせて興行収入50億円を超えた大ヒット作『翔んで埼玉』の原作は、ファンが多い作品とは言えませんでした。成功に導いたセオリーを紐解いてみます。

「ボクの歳で高校生ってどうなのか?」

映画『翔んで埼玉』公式ガイドブック(宝島社)
映画『翔んで埼玉』公式ガイドブック(宝島社)

 近年、マンガの原作を実写化した日本映画がますます増えています。原作ファンが「これはひどい」「どうしてこうなった」と嘆くような作品も目立ちますが、その一方で実写化が成功した作品も少なくありません。

「キングダム」シリーズや「るろうに剣心」シリーズ、映画に続くドラマも作られた『ゴールデンカムイ』など、実写化が成功して大ヒットした映画はいくつもあります。これらの作品は、原作ファンが映画館に押し寄せました。

 一方、原作ファンがそれほど多いとは言えないのに、実写化が大成功した作品があります。それが『翔んで埼玉』(2019年)と、先日「土曜プレミアム」で放送された続編の『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』(2023年)です。

「埼玉県民が東京に入るには通行手形が必要」「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせとけ!」などの、強烈な「埼玉ディス」で話題になった魔夜峰央先生のマンガを実写化したもので、第1作は興行収入37.6億円、第2作は23億円の大ヒットを記録しました。

『翔んで埼玉』は、原作が未完でわずか3話しかありません。1980年代に発表されたときはそれほど話題にならず、2015年に復刊されてベストセラーになりましたが、前述の人気マンガと比べると原作ファンが多いとは言えませんでした。それでも大ヒットしたのは、原作の持っているエッセンスを大切にしつつ、イメージを大きくふくらませて実写化したからです。

 なんといっても主人公のエリート高校生「麻実麗」にGACKTさん、生徒会長の「壇ノ浦百美」に二階堂ふみさんをキャスティングできたことが成功の大きな要因でしょう。GACKTさんは第1作の撮影当時40代半ば過ぎで、まったく高校生には見えませんが(本人も「ボクの歳で高校生ってどうなのか?」という戸惑いのコメントを残しています)、美貌の御曹司で「埼玉解放戦線」の主要メンバーという荒唐無稽な役柄にぴったりでした。

 何よりGACKTさんのキャスティングによって、「真面目に見てはいけない」という本作の態度がよく分かります。実力派女優の二階堂さんも、初めての男性役を果敢に演じきっていました。

 舞台を関西に移した第2作も、大阪府知事の夫と神戸市長の妻を本物の夫婦である片岡愛之助さんと藤原紀香さん、和歌山の姫君の本当の姿を天童よしみさん、京都の女将を山村紅葉さんが演じるなど、キャスティングに磨きがかかっています。

 原作が未完だったため、第1作では「千葉解放戦線」という設定を導入し、埼玉と千葉の熾烈な戦いを映画オリジナルで描きましたが、バカバカしい原作のイメージにぴったり沿っていました。千葉解放戦線の先代リーダーに、千葉の偉人であるJAGUARさんをキャスティングするあたりも気配りが行き届いています。

 一方、原作にあった「人種隔離政策(アパルトヘイト)」や「自民党への風刺」など刺激的な要素は取り除き、埼玉、千葉、群馬などの地方格差ネタに特化することで、肩ひじ張らずに気楽に楽しめるようにしていたのも成功の要因のひとつでしょう。予告編や「流山橋の戦い」をはじめとする印象的なシーンも、SNSで拡散されやすいように作られていました。

 置きに行かないキャスティング、原作のイメージに沿ってふくらませたストーリー、SNS戦略がすべてハマって『翔んで埼玉』は大ヒット作になったのです。

 武内英樹監督は、これまで「のだめカンタービレ」「テルマエ・ロマエ」シリーズなど、数々のマンガ原作作品を成功させてきました。近作の『はたらく細胞』も大ヒットさせた、まさにマンガ実写化職人といえる存在です。武内作品をつぶさに観ることで、マンガ実写化成功のセオリーが見つかるかもしれません。

(大山くまお)

【画像】え…っ?「マジで笑った」「ここまで込みで作品」 コチラが『翔んで埼玉』主演・二階堂ふみさんが美しい姿勢で埼玉・滋賀県知事に「謝罪」してる姿です

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