『ガンダム』高級将校でパイロットって非現実的じゃね? ←稀だけど実在、国王とか
「ガンダム」シリーズでは、軍組織の高官にしてMSパイロット、というキャラクターがわりと見られます。リアルを引き合いに考えると、少々前に出過ぎではないかという気もしますが、その現実にも、前線に出る高級将校がいました。
「大佐」クラスともなるとリアルではあまり前線に出ないようで…ただし例外アリ

「機動戦士ガンダム」シリーズでは、モビルスーツ(MS)に司令官クラスの高級将校がパイロットとして搭乗することは珍しくありません。例えば「シャア・アズナブル大佐」「ガルマ・ザビ大佐」「マ・クベ大佐」「ノイエン・ビッター少将」などが該当します。
これらの人物は単なるパイロットではなく、戦局を指揮する指揮官としての役割も果たしていますが、現実世界において戦闘機にこのような高い階級の軍人が乗ることはあるのでしょうか。
軍隊における階級制度は、戦場における指揮系統を明確にし、命令の伝達を円滑に行うために存在します。基本的に、戦闘機に乗り戦闘の最前線で作戦行動を行うのは中尉から中佐クラスの士官が主であり、大佐以上の階級となると部隊全体の指揮を執る立場に回ることが多くなり、戦闘機部隊全体を統括する役割に移ります。彼らが戦闘機に搭乗することは決して皆無ではないものの、通常は指揮や機体の運用に集中するため、最前線に出る機会は多くはありません。
戦闘機パイロットとして活躍した高階級軍人の例として、ドイツ空軍のアドルフ・ガーラント中将が挙げられます。彼は第二次世界大戦中、ドイツ空軍戦闘機乗りの長を務める一方で、パイロットとしても戦闘に参加し、104機の撃墜記録を持つスーパーエースです。
ガーラントは本来、戦闘機総監という立場上、戦場に出る必要はありませんでした。しかし、彼は戦闘機乗りとしての誇りを持ち続け、戦場で部下と共に戦いました。これは、彼が指揮官としての役割のみならず、戦闘機パイロットとしての腕前とリーダーシップを持ち合わせた特異な人物であったことを示しているともいえます。しかし見方を変えるとドイツ空軍の主流派から遠ざけられ、実権のない閑職にあったが故に最前線に立つことも可能だった、とも解釈できるでしょう。
近年でも高級軍人が前線に立とうとする事例は存在します。例えば2015年には、ヨルダン空軍のF-16パイロットがISIL(イスラム国)の捕虜となり、残虐な形で殺害され動画が流される事件が発生しました。この事件に対し、ヨルダンのアブドゥッラー2世国王自らが報復を宣言します。アブドゥッラー2世はAH-1「コブラ」攻撃ヘリコプターのパイロットであり、自ら実戦に参加することを希望したとも伝えられますが、最終的には出撃は見送られたようです。
また、詳しい情報は不明であるものの、2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻において、退役ロシア空軍少将のカナマト・ボタシェフがSu-25攻撃機で出撃、地対空ミサイルにより撃墜され戦死しています。ボタシェフは民間軍事会社「ワグネル」のいち社員として参戦していたと推測され、ただそのワグネル社において元空軍少将にふさわしい地位にあったかどうかは不明です。
ガンダムの世界では、大佐クラスのパイロットが戦闘に参加することは珍しくありません。これは、MSが単なる戦闘機械ではなく、時に象徴的な存在となり、指揮官自らが戦闘に関与するというドラマティックな要素を持つためであると考えられます。実世界でも例外的に、アドルフ・ガーラントのように高級将校が前線で戦うことはあるものの、それは極めて特殊なケースです。高級将校の役割は、戦闘機を操ることではなく、戦略を立案し、部隊を統率することにあるのです。
(関賢太郎)