「投げ売り」で伝説となった『ジーコサッカー』 本当に面白くなかったのか? 実際にプレイしてみた
サッカーの神様「ジーコ」の名を冠したスーパーファミコン用カセットが、定価9800円のところ、数百円といった価格で投げ売りされていたといいます。当時の評判が良くなかったそうですが、実際はどうなのか? 発売から31年、実機でプレイして確かめてみました。
日本のサッカー界に影響を与えた「レジェンド」の名を掲げる

31年前の今日、1994年3月4日は、スーパーファミコン用ソフト『ジーコサッカー』が発売された日です。1990年代のJリーグ創成期に、鹿島アントラーズの躍進を牽引し、日本のサッカー界にも多大な影響を与えた大スター、「ジーコ」が監修したとされるゲームですが、評価は発売当初から厳しく、売れ行きが低迷したため販売店では投げ売りがあいついだ……といわれています。
不評だった理由は、「操作性が悪い」「対戦プレイができない」「イエローカードや選手交代などの設定がなく、サッカーのリアリティに欠ける」といったものですが、果たして実際はどうだったのでしょうか。
マグミクス編集部では実際に『ジーコサッカー』のカセットを入手して、本当に投げ売りされるべきゲームだったのかどうか、確かめることにしました。
ジーコ自身もいち選手として参加?

ゲームをスタートさせると、「E.A. カップ」「ジーコカップ」「エキシビション」などのモード選択画面になります。試しに「ジーコカップ」を選ぶと、プレイヤーが操作するチームを選択することになります。やはりここはジーコが「てしおにかけたチームだ」とイチオシする鹿島アントラーズを選択します。
このゲームでは、鹿島アントラーズの選手だけが実名で登場します。アルシンド、黒崎久志、本田泰人、秋田豊といった名選手のなかに、しっかりジーコ本人も入っています。これにはアントラーズのファンではなかった筆者も少しワクワクしてきました。
対戦相手はメキシコ代表に決定。このゲーム、日本以外のチームは全て国家代表で、選手の名前も架空のものです。なぜか日本だけがいちクラブチームの参戦という形ですが、これは当作品の「座組み」というか、大人の事情なのでしょう。
思い通りに選手を動かせない……

さて、キックオフの場面を迎えます。スタジアムを埋め尽くすサポーターの歓声がリアルで、臨場感があります。
説明書によると、画面上部のフィールド画面でボール付近の選手の動きを、画面下のレーダー画面で全選手の動きを見ながら、選手たちに指示を与えて攻撃を進める……という流れのようです。
気持が高揚するなかホイッスルが鳴り、試合が始まりました。
「えっ」
選手たちは何もしなくてもボールを取りに行ってくれますが、ボールを持った瞬間、立ち止まってしまいます。
「あっ、ここで指示か」
カーソルを動かして、選手をドリブルさせる目的地を指定する、あるいはパスする相手を指定するのですが、これが全くうまくいきません。
ゲームの進行スピードに対してカーソルの動きが遅く、細かい指示出しを機敏に行うのが非常に難しいと感じます。相手の選手はすさかずボールを奪いにくるので、焦りからボタンを押し間違えて、相手にボールを献上するシーンも。
相手から攻撃される場面でも、味方に指示を出して、マークやスライディングをさせることができるらしいのですが、実際にやってみると、指示を出そうとしている間にゴール前まで迫られてしまいます。
幸いというか、何もしなくてもアントラーズのキーパーが相手のシュートを100%防いでくれるので失点せずにゲームは進みますが、こちらも相手ゴールにシュートを決める道筋が全く見えず、いっこうに面白さを感じられません。
それでも、15分ほどプレイすると少しコツをつかんできました。余計なパスはせず、シンプルに「ドリブルでゴール前にボールを運ぶ」ように指示すると、襲いかかる敵を蹴散らしてチャンスを作ることができます。そして、いざシュートの場面でXボタンを押すと、一瞬ゲームが止まって「シュートウインドー」が登場。説明書によると「適切な位置でボタンを押すとシュートを放つ」というのですが、焦る気持ちでボタンを押すと、選手はシュートを空振り……。
「なんだよ、もう」
やっとの思いでゴールに迫ったのに、無駄な演出によってイライラは最高潮です。そこで前半を0対0で終了し、ハーフタイムへ。
ロッカールームで「アドバイス」をもらえるボタンがあるので押してみます。するとジーコが、
「ガンガンせめていこう。まもりにはいるとぎゃくにやられてしまう。」
プレイヤーの困りごとを全く解決してくれないアドバイスに心が折れた筆者は、後半戦を戦うことなく、このハーフタイムでゲームを終えたのでした。
サッカーを「監督目線で楽しむ」可能性は提示した?
巷で「クソゲー」と言われていた『ジーコサッカー』は実際どうだったのか。結論からいうと、「もったいない」という感想でした。
プレイしてみると、基本的なパスをつなぐプレーでも相当素早く正確な操作が求められ、面白さを感じるよりも、思い通りにならないイライラを感じる場面が多かったです。熱心なサッカーファンは、ゲームの勝ち負けや選手の活躍だけでなく、味方と敵の「戦術」にも着目して試合を楽しんでいます。「選手に指示を出して勝利を目指す」というゲームコンセプトは意欲的だと思うのですが、それがプレイヤーに伝わる前に、投げ出されてしまったのではないかと考えられます。
もし、操作体系がもっと洗練されていて、自分の考える戦術のとおりに選手を動かしてゴールを実現できたら、『ジーコサッカー』は「監督目線」でのサッカーの面白さを楽しめるゲームになったかもしれません。
(マグミクス編集部)