え、牛乳配達辞めようとしてた? 『ばけばけ』司之介がまたもネットで叩かれる モデルの人物は「良い人過ぎて」もっとダメだった
連続テレビ小説『ばけばけ』では、松野家の借金を作った張本人にである司之介の、まさかの態度が話題になっています。
実際、愉快でいい人だったらしい

2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)さんと、彼を支え、さまざまな怪談を語った妻の小泉セツさんがモデルの物語です。
第7週では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」が「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」の女中として働き始め、それが松野家の家族たちにばれてしまいます。そして、35話でトキは自分の気持ちを話し、改めて養家の松野家と生家の雨清水家を支えていく覚悟を決めました。
その35話では、トキの養父「司之介(演:岡部たかし)」が、トキが月20円も貰える職に就いたことで安心し、牛乳配達の仕事を辞めようとしていたことも話題になっています。本人はそんなつもりはないと否定していましたが、松野家の面々は疑っていました。
SNSでは、そんな司之介に対し
「そもそも自分がこさえた借金がこの事態の一因だというのに、仕事辞めようとする司之介マジ司之介(むしろ仕事増やせ) 」
「トキが毎月20円の高給取りになったのですぐ気を抜こうとする。借金地獄の原因は自分にあるんだとこれからも絶対に忘れないでほしい。どんだけ娘に苦労をさせてるんだよ」
「司之介の作った借金だからな!そういえば、ウサギがはじけた時もおトキに『働け』って言ってたな。一番必死で働かないといけないのはお前や!」
といった声があいついでいます。
第1週で「ウサギの商売」に失敗して多額の借金を作った張本人で、その後も牛乳配達員として時間を守れなかったり、ヘブンを騙して牛乳1合で20銭も貰ったり、問題発言をしたりしてきた司之介には、これまでも多数の厳しい意見が出ていました。
コメディーリリーフの役割で、良くも悪くも話題になりやすい司之介のモデル・稲垣金十郎さんは、実際似たような人柄だったようです。彼に関する資料は少ないですが、歴史家の長谷川洋二さんによる評伝『八雲の妻 小泉セツの生涯』や、小泉セツさん、八雲さんの長男・小泉一雄さんの著書『父小泉八雲』には、下記のような記述があります。
「(金十郎は)いたって気のいい善良な侍であった。王政復古の大政変を前にして、京都が緊迫した空気に包まれていた時に、京都警備の任にありながら、連日のように烏丸通りに家来を遣って、好物の菓子を買わせたり、後々まで、鳥羽・伏見の戦いをおもしろおかしく子供たちに語り聞かせるといった、好人物だったものである」
「あまりに善良であり、すぐにも狡猾で薄情な手合の詐欺にかかった。そして稲垣家もまた、家禄奉還による資金を失い、祖母橋脇の先祖代々の屋敷を明け渡さなければならないことになった」(『八雲の妻 小泉セツの生涯』より引用)
「母の養父雲峰院殿(金十郎のこと)は稍覇気に乏しい善良な人であった。詐欺にかゝった上に相手が悪辣極る奴で逆に無実の罪を着せられ、数年後には晴天白日の身とはなったものゝ、裁判費用で財産を悉く無くし、日常の生活費にも事欠くの有様となった」(『父小泉八雲』より引用)
そんな金十郎さんは、借金を作って、セツさんが11歳で実父・小泉湊さんの機織り会社で働き始めたあと、自身は何の仕事もしていなかったようです。『八雲の妻 小泉セツの生涯』には
「四十になろうとしていた金十郎は、新時代の厳しい現実に適応することが出来なかった。人の良過ぎた彼には、粗暴な世間の苦杯を喫した後、生活のために奮闘することが困難であった」
と記されています。多額の借金を作ってしまった後、立ち直れなくなってしまったようです。
また、60歳を超えた古い侍気質の養祖父・万右衛門さんも、当然ながら家計を支える手助けはできず、稲垣家は働き者の養母・トミさんの織物の内職と、セツさんの機織りの仕事で食いつないでいました。
モデルの金十郎さんに比べれば、司之介はまだ働いているだけマシとも考えられます。
ちなみに、稲垣家の人びとは、セツさんとハーンさんの結婚後も一緒に暮らし、熊本から神戸、東京と移住先でも同居していました(万右衛門さんだけは熊本から引っ越す際、松江に帰った)。史実通り、松野家の家族がトキたちにずっとついていくなら、司之介が本当に牛乳配達をやめる日も近そうです。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『父小泉八雲』(小山書店)
(マグミクス編集部)
