R指定で実写化された『ばるぼら』 手塚眞監督が語る手塚マンガの女性像とは?
作家の悩める内面を描いた手塚治虫氏の異色ファンタジー『ばるぼら』が、実写映画化されました。作家・美倉役の稲垣吾郎さん、美倉のミューズとなる「ばるぼら」を演じた二階堂ふみさんがハマリ役と評判です。手塚マンガを幼少の頃から読み親しんできた手塚眞監督へのインタビュー後編をお届けします。
表現者の葛藤を描いた大人のファンタジー
“マンガの神さま”手塚治虫氏が1973年~74年に執筆した異色作『ばるぼら』が実写映画化され、2020年11月20日(金)より劇場公開が始まります。人気作家の美倉(稲垣吾郎)はフーテン娘のばるぼら(二階堂ふみ)と出会い、やがて彼女なしでは小説を書くことができなくなってしまいます。ばるぼらは創作意欲を掻き立てる女神なのか、それとも男を破滅に追い込む魔性の女なのか。表現者の葛藤を描いた大人向けのファンタジーとなっています。
原作ファンが「ここまで描いたのか」と驚くような展開が、映画『ばるぼら』の後半には待っています。原作が持つテーマ性を薄めることなく描いてみせたのは、手塚治虫氏の長男・手塚眞監督です。インタビュー前編<本体サイトのみ、前編記事へのリンク設置>に続く後編では、手塚マンガに登場する女性像のモデルについて、ばるぼら役を熱演した二階堂ふみさんらキャストについて、手塚眞監督に語ってもらいました。
身近にいた手塚作品のモデルたち
ーーばるぼらは自由奔放で、男の言いなりには決してならない。怪しい黒魔術も使う。でも、美倉はそんなばるぼらを手放せなくなってしまう。『ばるぼら』は手塚治虫氏の女性像が描かれた作品とも言えそうですね。
手塚作品の女性像というよりも、世界各国のあらゆる作家たちが思い描く女性観の集合体みたいなものでしょうね。どの国でも、作家の前にはミューズ的な女性が現れるものだと思います。フランスならファムファタールと呼ばれ、米国映画では悪女として描かれ……。世界中の作家たちが、ばるぼら的な女性をモチーフにしてきたんじゃないでしょうか。
ーー手塚作品には、明るく育ちのよさそうなヒロインがたびたび登場します。手塚家の家族写真を拝見すると、手塚治虫氏の奥さま・手塚悦子さんに似ているように感じるのですが。
あぁ、なるほど。でも、性格的なところは母とは違うように思います。父の学生時代には、ボーイッシュで、エネルギッシュな性格の女の子たちが周囲にけっこういたそうです。『ブラック・ジャック』に出てくるピノコは、父の妹さんのイメージに近いと思います。身近にいた女性たちはモデルにしやすかったんでしょうね。
兵庫県宝塚市で育った父は、子供の頃から「宝塚歌劇団」を観ていたので、その影響も大きいようです。学生時代には取材という形で、楽屋にも入っていたそうです。スタイルのいい美しい女優たちが舞台裏で男装し、舞台上でスポットライトを浴びる様子は、強烈な印象を与えたんだと思います。父の描いた立ち姿のきれいな女性キャラなどに、反映されているように感じます。