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野球界の「夢」を現実にした水島新司先生のマンガ作品。イチローも、清原も…

女性プロ野球選手・水原勇気の誕生

女性のプロ野球選手の活躍を描いた『野球狂の詩 水原勇気編』第3巻(講談社)
女性のプロ野球選手の活躍を描いた『野球狂の詩 水原勇気編』第3巻(講談社)

 水島先生は熱烈なホークスファンとしても知られていました。代表作のひとつ『あぶさん』は、主人公・景浦安武が南海からダイエー、ソフトバンクとホークス一筋37年を渡り歩いており、ホークスの年代史としても貴重な資料となっています。

 ソフトバンクがホークスの経営権を取得した際に、取締役オーナーに就任した孫正義氏が「ホークスに詳しい人から話を聞きたい」と周囲に相談したところ、皆がこぞって水島先生の名前を挙げたことを明かしています。水島先生逝去の際には王貞治会長が「南海・ダイエーとホークスが弱い時に支えていただいたホークスの恩人です」とコメントを出し、故人を悼んでいました。

 球界最高の知将だった故・野村克也氏とのエピソードも秀逸です。女性のプロ野球選手を出したいと考えていた水島先生が知り合いのプロ野球選手にアイデアを打ち明けたところ、ただひとり野村氏だけが「その投手にしかないボールがあれば、ワンポイントとしてなら通用するかもしれない」とアドバイスを送り、『野球狂の詩』の女性投手、水原勇気が生み出されました。

『ドカベン』でルールブックの盲点による得点が物議をかもした際、野村氏は当初水島先生のミスだと考えたものの、後に水島先生が正しいと理解し、自分の勉強不足だと語ったそうです。水島先生の野球へのあくなき探求心を感じさせるエピソードといえるでしょう。

 水島先生の野球、そしてマンガへの情熱は凄まじいものがあり、すでに十分すぎるほどの実績を持っているにもかかわらず、20年ほど前には「もし連載が終わってしまったら、持ち込みをする」と語っておられたことが印象的でした。そんな水島先生も2020年1月に漫画家を引退。ついにこの日を迎えてしまいました。

『大甲子園』の中西球道が163キロを投げていたころ、現実の高校生が160キロ代を出すなど夢物語でした。しかし2019年に佐々木朗希投手が163キロを記録し、ついに夢は現実となったのです。水島先生は亡くなられましたが、先生が描いた物語は現実となって、新たな世界を切り拓き続けているのです。

 最高の漫画、最高の情熱を、たくさんたくさんありがとうございました。水島先生、お疲れさまでした。

(早川清一朗)

【画像】野球好きの「夢」を形にした、水島新司氏のマンガ作品(5枚)

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