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もしや完全実話? 『まんが日本昔ばなし』の「怪奇現象ナシ」だけどトラウマな回

1975年から1994年にかけて放送された『まんが日本昔ばなし』では、さまざまな事情から理不尽な死を迎えてしまう話が放送され、子供たちに多くの教訓を教えてくれました。数々のエピソードのなかから特に印象に残るお話をふたつ、紹介させていただきます。

底なしの田んぼに呑まれる悲劇

『キジも鳴かずば』が収録された「まんが日本昔ばなし BOX第7集」(東宝)
『キジも鳴かずば』が収録された「まんが日本昔ばなし BOX第7集」(東宝)

 1975年から1994年にかけて放送された『まんが日本昔ばなし』では、さまざまな事情から登場人物たちが理不尽な死を迎えてしまう話が放送され、子供たちに多くの教訓を教えてくれました。妖怪や幽霊に殺されてしまう怪奇現象の回もありましたが、一方で「超常的現象」は何ひとつ起きていない、現実的な悲劇の回もあります。

 山で岩場に取り残されてしまった青年の悲劇「吉作落とし」や、少女がうっかり歌った内容のせいで父親が人柱にされてしまう「キジも鳴かずば」の回が有名ですが、その他にもある印象的な、本当にあった話ではないかと思ってしまう「現実的な悲劇」のお話をふたつ、紹介させていただきます。

●「深んぼのすげがさ」1987年5月30日放送

 これは、今では茨城と呼ばれる場所のお話です。ある村に、よそから若くてきれいなお嫁さんがやってきました。野良仕事に不慣れなお嫁さんは新しい生活に慣れようと、夫からもらった「すげ笠」をかぶって、姑に小言を言われながらも毎日一生懸命働いておりました。

 やがて田植えの季節となりましたが、この年はいつにも増して忙しく、お嫁さんは皆が帰った後も、ひとりで夜になるまで田植えをしていたのです。家に帰ると夕飯を作って、みんなが寝静まった後にぬるい湯に入っていたお嫁さんでしたが、夫が風呂を再度焚いてくれました。お嫁さんは、生き返るような気分になったそうです。

 ようやく田植えも終わりに近づき、あとはそれまで苗を育てていた苗代田(なわしろだ)の深んぼを残すのみとなりました。深んぼとはもともと泥沼だったところに、足場を作り田んぼにした場所で、もしも落ちたらそのまま沈んでしまう底なし沼のこと。あと少しだからすぐ終わる、そう考えたお嫁さんは旦那さんを先に帰らせて、ひとりで田植えを始めたのです。

 ひとつ、ふたつ、あと少し、もう少し。お嫁さんが最後の苗に、手を伸ばした時でした。お嫁さんはよろけて、足場を踏み外し田んぼのなかに落ちてしまったのです。いつまで経っても帰ってこないお嫁さんを心配し、駆け付けた旦那さんが見たのは、月明かりに照らされて田んぼに浮かぶ、お嫁さんのすげ笠だけでした。

 江戸時代は、お米が経済の中心となっていた時代でした。そのため、少しでも多くお米を作ろうと、わずかな土地にも無理やり田んぼを作っていたのです。山の斜面を削り、階段状に作られた「棚田」や、水位の高い川の近くで土を掘り、積み重ねることによって幾分高い土地を作り稲を植えた「堀田」など、先人たちが血のにじむ努力で作り上げた田んぼは、日本の各地に今も存在しています。

「深んぼのすげがさ」も、わずかな米のために底なし沼を無理やり田んぼにしたために、起こった悲劇です。しかしそれだけではなく、危険な場所で作業する場合は必ず複数人で行う、暗くなったら無理をしないなど、現代の労働災害を防ぐ教訓も含まれている点にも、着目すべきお話ではないでしょうか。

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