『機動戦士ガンダム』なぜ連邦はジオン本国を直接攻撃しないのか そのもっともな理由
なぜ連邦はジオン本国への攻撃を「やりたくない」のか

その理由は、色々考えられます。
まず「ジオン側からの南極条約破棄」です。特にチェンバロ作戦による宇宙要塞ソロモン攻略前は、地球連邦軍の宇宙での根拠地はルナツーだけですから、サイド3と地球のあいだはジオンの勢力圏下にあり、地上への攻撃を防ぐことは極めて困難です。その傍証としては、ジオン軍による地球侵攻作戦での補給路が確保されていたことを挙げられるでしょう。
この状況で、ジオン本国への攻撃が成功してしまうと、独裁者ギレンは報復のために「南極条約破棄、再びコロニー落とし遂行」に舵を切る可能性が高いです。
連邦軍が宇宙要塞ソロモンを攻略して、サイド3に近い拠点を確保したのは終戦間際の12月25日です。連邦としては、このまま普通に戦争を続ければ勝てると考えたでしょうから、政治的にリスキーな条約破棄を誘発するジオン本国への攻撃には、その必要を認めなかったのでしょう。
また「交渉相手がいなくなる」問題も考えられます。太平洋戦争でアメリカは東京への原爆投下を検討しましたが、目標から除外された理由のひとつは「相手の政府が消滅すると交渉相手がいなくなり、占領統治が困難になる」というものでした。これと同じ理由で「過激なスペースノイドを取りまとめているザビ家を、サイド3攻撃が成功することで、万が一抹殺してしまったら、その後は収拾がつかない」と考えたのは無理もありません。
実際、ザビ家がいなくなり、サイド3が連邦に恭順するジオン共和国となった後でも、ジオン軍の「デラーズ艦隊」はジオン共和国に従わず、「星の屑作戦」の実行で、地球にスペースコロニーを落として大打撃を与えることに成功しています。
サイド3への直接攻撃で、ザビ家を抹殺してしまったら、残ったジオン軍兵力が「南極条約を無視して、手段を選ばない報復に出る」という懸念は、当時もリアルにあったのでしょう。
実際、戦局不利になったジオン軍は、オデッサ作戦で「ユーリ・ケラーネ」が核兵器(にしか見えない爆弾)を使用して、連邦軍の追撃部隊を「消滅」させたり(『第08MS小隊』)、以下は阻止されたものの、「マ・クベ」による水爆使用や(『機動戦士ガンダム』)、サイド6の「ガンダムNT-1 アレックス」を破壊するために、「キリング」が核ミサイルを使おうとした事例(『ポケットの中の戦争』)など、度々条約違反を行っています。
そうしたジオンによる条約違反の懸念や実例もあって、皮肉にも軍事的には有効そうに見える「ジオン本国直接攻撃」を防いでいたのだと、筆者は考える次第です。
なお、ギレンが暗殺されずに「星一号作戦」が連邦の勝利で終わったなら、残ったジオン艦隊はアクシズへの脱出ではなく、ジオン本国防衛戦に動員され、そこで大きく消耗していたでしょう。
そうなったなら終戦後のジオン軍は劇中よりも遥かに弱体化し、デラーズが「星の屑作戦」をしたり、ハマーンが「アクシズ/ネオ・ジオン」として地球圏を攻撃できるほどの戦力は残らなかったかもしれません。
連邦としても、ザビ家がア・バオア・クーで全滅し、ジオン軍残党がサイド3政府の掌握、命令できない「アクシズ」などに多数逃亡した劇中の展開は、想定外で禍根が残る講和だったとも考えられます。
(安藤昌季)