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生成AIにクリエイター危機感 一方で「クリーンなら使いたい」の声も 共存への道は?

アニメチェーンはクリーンで倫理的なAI開発を目指す

アニメチェーンのメンバーでAIHUB株式会社CTO・新井モノ氏
アニメチェーンのメンバーでAIHUB株式会社CTO・新井モノ氏

 これに対して、アニメチェーンはどう応えるのかというと、前編でも触れたとおり、著作権に抵触しなければOKという考え方ではなく、学習データも許諾を得て提供してもらってAIを開発するという道を目指しています。

 つまり、法律にだけ配慮するのではなく、クリエイターの心理的な面にも配慮して「倫理的な」AIを作ろうとしているということです。

 アニメチェーンのメンバーでAIHUB株式会社CTO・新井モノ氏は、「中国やアメリカのビッグテックは配慮なしにどんどん学習していますが、我々は心情的な面も充分に配慮します」と語ります。

 前編でもお伝えした通り、クリエイター側にも「(権利などが)クリーンなら使いたい」という声がありますし、AIという新たな技術を全て否定しているわけではありません。許諾されたものだけを学習したAIなら、充分にクリーンといえるでしょう。

 その許諾を得るために、アニメチェーンは1社ずつアニメ会社を訪問して、倫理的なAI作りについて説明を行っているそうです。

 そして、その学習データを提供してくれた権利者の方たちには、ブロックチェーン技術を利用して、利益に還元するといいます。具体的には学習データをブロックチェーンでどの素材が学習に使われたのかを全て履歴化し、売上のマージンからデータ提供者に還元するというプランです。

 Turingum株式会社顧問で、アニメチェーンのメンバーでもある三瀬修平氏は、「ブロックチェーンと聞くとNFTのようなものを想像されると思いますが、アニメチェーンはそういうものとは違います。どのデータがどのように学習に使われたのかを記録・保存することができ、最終的なアウトプットにどの程度貢献したかを自動的に計算するシステムを使って、売上の数パーセントをデータ提供者に効率的に還元するモデルを作りたいと思います」と話します。

Turingum株式会社顧問でアニメチェーンのメンバー・三瀬修平氏
Turingum株式会社顧問でアニメチェーンのメンバー・三瀬修平氏

 実際、アニメスタジオはこうしたアニメチェーンの説明を聞いてどう思っているのでしょうか。

「ビッグテックの影響か、許諾をもらいに行くと最初は拒否反応を示される場合もありますが、きちんと説明させていただければ、みなさん、おおむねいい取り組みだと言ってくださいます」(三瀬氏)

 現在は、色々な会社を回ってパートナーとなってくれる会社を増やしている段階で、大手を含むいくつかのアニメ会社からも感触のいい反応があるとのことです。

いちいち許諾を取っていて、ビッグテックに勝てるのか?

 しかし、ここで大きな疑問が生じます。資金力のあるビッグテックは許諾なしにどんどん学習データを集めて、急スピードで開発を進めているのに、ひとつひとつ会社から許諾を得るような方法で、本当にビッグテックに対抗可能なのでしょうか。

 新井氏は「許諾を得たデータのみで充分に質の高いものは作れるので対抗できる」と明言します。

「AIは元々オープンソースとアカデミックな論文で発展しています。我々もオープンソースの技術を用いて開発するつもりで、日々それは発展しています。かつては50億ほどの学習データが必要と言われていましたが、今なら2500万から3000万くらいで質の高い基盤AIが作れるようになっています。なので、アニメ作品300本ほどの許諾があれば、それぐらいの枚数が集まるはずです」(新井氏)

AIはアニメ中間素材のアーカイブに貢献できる?

NAFCA理事、アニメ演出家のヤマトナオミチ氏
NAFCA理事、アニメ演出家のヤマトナオミチ氏

 しかも、アニメチェーンはネットにアップされている完成品だけではなく、原画などの中間データも学習に組み込みたいのだそうです。そうすることで、アニメの制作工程をより深く理解した基盤AIが作れるようになる可能性が高まるというのです。

 それはビッグテックが持っていないデータを学習に用いるということであり、ひとつのアドバンテージになりそうです。

 NAFCA理事でアニメ演出家のヤマトナオミチ氏は、ひとつの提案として、AIをアニメの中間素材のアーカイブに活用してほしいと語ります。

 日々制作されるアニメにおいて、完成映像を作るために、原画や絵コンテなど、膨大な中間成果物が生まれていますが、それらは基本的には日の目を見ることなく、破棄されることもあります。

「昨年も有名なアニメーターの方が亡くなり、そうした方たちの原画などが収集しきれないという状態になっていて、保管にもコストがかかります。AIを使ってそうした方たちの仕事を保存することができれば、活用してほしいという思いがあります」(ヤマト氏)

 そうした中間成果物を保存し残していきたいアニメ業界の課題に対して、アニメチェーンのシステムは貢献できる可能性はあるのでしょうか。

 これに対して、アニメチェーン側は「アニメチェーン協議会を通してアニメ業界の標準ワークフロー、アセットの確立や管理とAIによる高度化は検討しており、アーカイブされていく予定です」という回答で、中間素材のアーカイブ化についても一定の貢献はできそうです。

 それに、アニメチェーンの還元システムならば、これまでは保管するだけでコストが発生していた中間素材からお金を産む仕組みを作れる可能性もあります。これはアニメ制作者にとってはメリットになり得るかもしれません。

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