「編集ファミコン」という幻の正規品 “4万円超えの高級機”はいったい何ができた?
価格が高く、搭載された機能もファミコン少年たちにあまり響かなかった「編集ファミコン」。非常にレアなファミコンのひとつですが、実は優れた機能で一部のユーザーに支持されていました。
「編集ファミコン」最大の魅力は、編集機能以外にアリ!

ファミコンといえば、大半の人が「赤と白の本体」を思い出すはず。なかには、「ビデオ出力に対応した灰色の本体」(AV仕様ファミリーコンピュータ)や、「赤もしくは黒で、ディスクシステムの機能を兼ねた本体」(ツインファミコン)を連想する人もいるかもしれません。
しかし、現役で遊んでいたユーザーであっても、「編集ファミコン」が出てくる人はあまりいないのではないでしょうか。当時のファミコンキッズがほとんど知らない「編集ファミコン」は、ゲーム史の歴史に埋もれる謎めいたゲーム機のひとつですが、実は非常に素晴らしい特徴を備えていました。
●「編集ファミコン」ってパチモン?
ファミコンの全盛期が去った後も、ファミコンのゲームが遊べる互換機はいくつも登場し、いまも多くの愛用者がいます。そうした互換機のほとんどは任天堂とは無関係に製造されたものです。しかし、「編集ファミコン」は当時許諾を受けて製造されたもので、何の問題もない正規品です。
現行機の「PlayStation 5」や「Nintendo Switch」は、いずれもSIEと任天堂のみが本体を生産しているため、「他社が製造する本体」に違和感を覚える人もいるかもしれません。しかし、かつては他社が正式な許諾を得てゲーム機本体を製造することも珍しくはなく、先ほど名を挙げた「ツインファミコン」も典型例のひとつでした。
今回取り上げる「編集ファミコン」を製造・販売したのは、家電メーカーとしていまも名を馳せている「シャープ」です。「ツインファミコン」や「ファミコンテレビC1」など、ファミコンにさまざまな機能を組み合わせた家電をいくつも製作しており「編集ファミコン」もそうした流れのなかで生まれました。
●本当に編集ができる「編集ファミコン」
「編集ファミコン」は「ファミコンタイトラー」とも呼ばれており、1989年に発売されました。価格は43000円とかなり高めで、ファミコン本体の14800円と比べて約3倍近い金額です。
この機器では従来のファミコンと同様にゲームが遊べるほか、ビデオ編集機能が備わっていました。編集機能として、手書き文字による入力を認識するパネルや、映像に文字などを重ね合わせるスーパーインポーズ機能などもあり、43000円という高額もある程度納得できます。
ただし、映像を編集する機器としては性能的に物足りなかったのも事実です。また、ファミコンと映像編集の両方を求める人も少なく、残念ながら大きな話題にはなりませんでした。
●実は「ファミコン」としての性能は特筆レベル
映像編集の機器としては需要は小さかったものの、ファミコンソフトを極上の環境で体験したい場合、実は「編集ファミコン」は非常に優れた機器でした。
「編集ファミコン」は編集機器の側面があるため、映像出力にS端子を採用しています。S端子は、当時のビデオデッキはもちろん、後のDVDやBlu-ray Discレコーダーに採用されていたこともあるほど、長く使われる優れた出力規格です。
編集機器と一体化しているため、「編集ファミコン」のファミコン機能も、このS端子を経由して画面を出力できます。ファミコンのRF端子やAV仕様ファミコンのコンポジットビデオ出力よりも性能が良いS端子の恩恵を受け、「編集ファミコン」のゲーム画面は鮮やかで見やすく、素晴らしい体験を提供してくれました。当時のファミコン体験としては、最高ランクといっても過言ではありません。
意外な形で再評価され、一部ユーザーの間で盛り上がりを見せた一方で、カジュアル層にインパクトを残せなかった「編集ファミコン」。昨今のゲーム機では、ゲームの画像や映像を直接保存し、さらには加工も可能であり、「編集ファミコン」が見たかった夢の続きがいま蘇っているのかもしれません。
(臥待)