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初週で白雪姫の4倍稼いで大好評の「実写スティッチ」 いったい何が違ったのか?

大ヒットをしている実写版『リロ&スティッチ』の魅力と、その大成功の理由を解説します。

児童福祉描写の誠実さも魅力

実写版映画『リロ&スティッチ』ビジュアル (C)2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
実写版映画『リロ&スティッチ』ビジュアル (C)2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 2025年6月6日に日本公開となった実写映画版『リロ&スティッチ』が、とてつもない大ヒットを記録しています。5月23日に全米で公開されるやいなや、メモリアルデー週末4日間としては歴代No.1のオープニング記録となる1億8300万ドル (約261億円) を達成し、その初動成績は実写版『アラジン』や『美女と野獣』をも超えました。

 2週目でも当然No.1で、全米の累計興行収入は2.8億ドル(約400億円)、世界興収は6億ドル (約870億円)を突破しています。直近のディズニー作品で赤字が出ているという報道も多い、実写版『白雪姫』が全米オープニング4220万ドルと苦戦し、世界興収が累計2.5億ドル(約299億円)にとどまったのに対し、今回の『リロ&スティッチ』は全米初週でその4倍以上を稼ぎ、全世界累計でも2週目で2倍以上の成績を叩き出しているのです。

 特大ヒットスタートとなったのは、やはり予告編で分かるキャスティングの妙や、ハワイという絵になる舞台、そして実写になった「スティッチ」の「もふもふ」さ、愛らしさなど、オリジナルを知らない人にも訴求する魅力が大きかったためでしょう。

 そして、実際に試写で本編を鑑賞しても、オリジナルとなる2002年のアニメ版のリスペクトが伝わる、ディズニーの実写化映画のなかでもトップクラスの完成度だと思いました。その理由を解説します。

※以下、決定的なネタバレは避けつつ、実写版『リロ&スティッチ』の一部内容に触れています。

●『マルセル』の監督を抜擢した慧眼

 まず「慧眼」といえるのが、第95回アカデミー賞で長編アニメーション賞のノミネートなど、高い評価を得た2021年の映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』のディーン・フライシャー・キャンプさんを、監督に抜擢したことです。ディズニーの実写映画作品は、インディペンデント作品出身の監督を抜擢することがよくあり、そのなかでもオリジナルとの相性が最高かつ、その資質がみごと作品に昇華された例といえるでしょう。

 その『マルセル 靴をはいた小さな貝』のあらすじは、おばあちゃんとふたり暮らしをしている、小さなおしゃべりな貝「マルセル」を追ったドキュメンタリーを制作するというものでした。『リロ&スティッチ』とは、「異質な存在と交流し、その気持ちを理解しようとする」流れや「家族とふたり暮らしだけど、孤独や不安を抱えている」キャラの心理などなど、符合する点が多いのです。

 しかも、その『マルセル』は実写と「ストップモーション」のアニメを融合した作品で、家のなかで「こう暮らしていることが分かる」ことも大きな魅力でした。今回の『リロ&スティッチ』も実写と「3DCG」のアニメを合わせた作品であり、今回のスティッチが室内で繰り広げるドタバタ劇や、オリジナル版とは異なるギミックのアクションのワクワクも、『マルセル』に少なからず通じています。実際のハワイの賑やかな景観や雰囲気も相まって、「実写映画化した意義」も十分に感じられました。

●児童福祉の描写の誠実さ

 また、個人的に感服したのは、「児童福祉」の描写が誠実なことです。6歳の妹の「リロ」と18歳の姉の「ナニ」はふたりで暮らしているという設定のため、ナニは行政から保護者としての能力を問われます。

 オリジナル版の福祉局の男性「コブラ・バブルス」が強面で威圧感があったのに対し(同じキャラは少し役割が変更されて今回も登場します)、今回の実写版では女性の福祉士の「ケコア(演じているのはオリジナル版でナニの声を担当したティア・カレル)」が登場しました。彼女はよりふたりに親身に接し、心から身を案じている印象も強くなり、ナニが仕事を見つけるまでの過程や「保険」の描写、そして「妹と離れないといけないかもしれない」苦しさも、より丁寧かつ切実に描かれています。

 さらに重要なのは、姉のナニが「海洋生物学を学びたい」という夢を持っていることで、そちらもオリジナル版からプラスされた「未来への選択」にまつわる、とても感動的なものになっていました。その未来への選択もまた、同監督の『マルセル』に通じているのです。

 思えば、日本のアニメ映画でも児童福祉関連の描写がある作品はありますが、やや中途半端、または不誠実な扱いに思えてしまったり、ファンタジー要素との食い合わせが悪くなっている例も見受けられました。一方、今回の『リロ&スティッチ』はファンタジー要素を邪魔することなく、実際の福祉の意義もしっかり描いています。

 比較で言及するのはあまり良くないとは思いつつも、直近の実写版『白雪姫』は残念ながら「オリジナルへのオマージュと、実写映画のアレンジがあまり噛み合っていない」印象を持ってしまいましたが、今回の『リロ&スティッチ』は「新たな魅力を打ち出しつつも、オリジナルの重要な場面も外さない」リメイクのバランスとして、やはり理想的といえます。

 日本語吹き替え版も素晴らしいでき栄えで、オリジナル版からスティッチ役の山寺宏一さんや、地球に詳しいエージェントの「プリークリー」役の三ツ矢雄二さんが続投しているのもうれしいですし、悪の天才科学者ながらどこか憎めない「ジャンバ博士」役の長谷川忍さん(シソンヌ)が、意外なはまり役になっているのも見どころです。

 あるキャラクターの顛末がオリジナル版から変わっていたり、映画を見慣れている人にとってはやや予定調和な印象に収まりそうなシーンもあったりと、ほんの少しだけ賛否を呼びそうなポイントもあるものの、それ以外では「オリジナル版が好きだった人にも大納得の実写版」「誰もが楽しめるエンタメ」として、これ以上を望めないほどの出来だと思えます。

 なお、6月6日放送の「金曜ロードショー」では、オリジナルのアニメ映画『リロ&スティッチ』が放送されます。そちらを鑑賞してから土日に映画を観れば、違いもしっかり楽しめるでしょう。

(ヒナタカ)

【画像】え…っ? スティッチもだけど「リロの再現度たかっ」 こちらが大評判実写版の「原作」です

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ヒナタカ

映画ライター。WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「女子SPA!」「NiEW(ニュー)」、紙媒体「月刊総務」などで記事を執筆中。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

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