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初代『ガンダム』OP主題歌「翔べ!ガンダム」の歌詞にファン違和感? 本編と微妙に違う「大人の事情」

「ガンダムは銀河に向かってないんですけど?」 アニメの主題歌成立にもそれぞれ事情があった?

昔のアニメ主題歌「なんで内容と違うの?」

『機動戦士ガンダム』のオープニングテーマ「翔べ!ガンダム」CDジャケット(キングレコード)
『機動戦士ガンダム』のオープニングテーマ「翔べ!ガンダム」CDジャケット(キングレコード)

 先日、アニメは一視聴者である友人に、不思議そうにこう訊かれました。

「1980~90年代のころのアニメの主題歌って、中身と全然関係ないのが多いと思うんだけど、なんで?」

 全てが全てではないですが、私も個人的にはそうだなと思います。

 というか、その年代に限らず、そうしたアニメの主題歌はよく見かけます。ネットなどでは79年放送の『機動戦士ガンダム』の主題歌「翔べ!ガンダム」すら歌詞内容が物語と合わないとして物議になってもいるようですね。

 たしかにあの物語のなかでは、ガンダムは「銀河に向かって」は飛翔しません。第1話で主人公のアムロが起動はさせますが、あれを「よみがえる」と表現していいものか? こだわりを持って聴けば、そりゃ違うだろ、と思う人もいるでしょう。

 作詞は「井荻麟(いおぎりん)」。ファンの間では「ガンダム」シリーズの監督、富野由悠季氏の作詞家ペンネームとして認知されている名前です。

 ところが、この「井荻麟」は、正確には富野監督個人「だけ」を指す名前ではありません。

 実は、まだ設立したてだった頃の日本サンライズ(後のサンライズ、現バンダイナムコフィルムワークス)の企画室が、設立初期に制作した『無敵超人ザンボット3』『無敵鋼人ダイターン3』の歌詞を作った時、今後、サンライズ作品の作詞は個人名でいこう、という意図で出来上がったペンネームなのです。(『ザンボット』は初代社長の奥様が作詞しました)

 日本サンライズは、東京の西武新宿線上井草駅前にあり、そのひとつ新宿寄りの駅が「井荻」。つまり「井荻のとなり(隣)」という、ある意味では実に安直な発想の名称なのですが、同じ「となり」でも「隣」では芸が無いから「麟」。麒麟(きりん)の「りん」にしたというわけです。

 そして、このペンネームを、富野監督も作詞の時には主に使っていますし、実は数は少ないとはいえ、富野監督以外の方が参加された場合にも使っているのです。

 本題の「翔べ!ガンダム」の歌詞ですが、ここには時代性が関係します。

 昨今のアニメーション作品は、その多くがマンガなどの原作を持ちます。TVアニメーション創世記の『鉄腕アトム』や『鉄人28号』なども、人気マンガのアニメ化でした。ということは、アニメ化される段階で、すでにどんな物語かが分かっていますよね。

 そのおよそ10年弱後くらいから、玩具とのコラボで爆発的な人気を得た『マジンガーZ』なども、すでに著名だった永井豪氏のマンガと東映とのタッグで生まれた、いわば「半原作もの」です。

 ところが『ガンダム』をはじめとする当時のサンライズ作品の8割は完全オリジナル。原作となるマンガもなければ小説もありません。あるのは玩具会社との「次はこの玩具が売れる番組にします」という約束。これを前提に、スタッフたちが相談しながら作っていくのです。

 作品主題歌は、作品の全貌をまだ模索している、限られたスケジュールのさなかに作られていくことが通例です。

 となれば、まずは「子供がかっこいいと感じてくれる歌」で、雰囲気が「それっぽく」「スポンサーがヨシと思ってくれそうな」主題歌を作ることになります。

 色々苦難はあるだろうけど、仲間とともに宇宙を舞台に戦うスーパーロボット、ガンダム。

 それが「翔べ!ガンダム」という歌になったという訳です。

 歌詞そのものが良いか悪いかはユーザーが決めればいいことですが、こう思って聴いてみると、この歌の意図は、あながち、あの『ガンダム』の内容とは遊離していない気がするのは私だけでしょうか?

 ちなみに友人の疑問、80~90年代の主題歌については、スポンサーの一角に入るようになった音楽制作会社さんの意図を、ある程度反映していくような時代になったから。アニメ制作側もそれを加味しながらオープニング映像を作っていた……のようなイメージで捉えていただければと。

 つまりはいわゆる「大人の事情」なのですが、そうしたなかから、森口博子さんやMIQさんなど、後々アニメーションの新たな時代の楽曲を牽引して下さる歌手の方々も生まれ、現在のようにアニメの歌が日本のミュージック界の一角を支えるパワーになっていくのですから「是非を問う」のは野暮な話かもしれません。

 だって、昔は「大人がカラオケでアニメソングを歌うなんて」と言われたものですが、今ではアニメソング抜きなんて考えられませんからね。

(風間洋(河原よしえ))

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。

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