24歳で30作近く出演、河合優実の「一筋縄ではいかなすぎる」キャラが見られる映画たち
『あんぱん』でも話題の河合優実さんの、「攻撃的」だけど「それだけじゃない」役がすごい映画3作品を紹介します。
攻撃的なニュアンスを出せる演技力

NHK連続テレビ小説『あんぱん』の3姉妹の次女「朝田蘭子」役で話題の河合優実さんは、2019年のデビュー以降、まだ24歳ながら30作近い映画に出演しており、さまざまな作品が話題になってきました。
なかでも代表作は、売春や麻薬の常習犯である21歳の女性「香川杏」を演じ、第48回日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞した実話ベースの『あんのこと』でしょう。そのほかでも、河合さんの「攻撃的」な態度を見せる役柄で、かつ「それだけじゃない」感情を表現した作品を振り返ります。
●『由宇子の天秤』監督:春本雄二郎
2021年公開の『由宇子の天秤』は、ドキュメンタリー監督かつ父の学習塾を手伝う「木下由宇子(演:瀧内公美)」が、想像だにしない最悪の事態の解決に奔走するサスペンスドラマです。河合優実さんが演じたのは、その問題にかかわる父子家庭の女子高生「小畑萌(めい)」でした。
萌は自身の抱えた問題について「学校にも友達にもバレたくない。お父さんには絶対にいやだ」と、消え入りそうな声で口にする一方、その直後に帰宅した父親の勝手な「決めつけ」に対しては「はぁ?ふざけんなよ」と怒りも見せる、「弱々しいだけではない」キャラクターです。
後半では彼女が「普通の女の子」のように朗らかな印象を持たせる場面もあり、映画のチケットを差し出されて「マジで?」と喜んだり、険悪に思えた関係の父親へさえも「じゃあ私、スープ作る、スープ」と積極的な行動を見せたりするシーンもあります。それだけに、起きた事態の「取り返しのつかなさ」も際立ちました。
主人公の由宇子が、別の3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件にまつわる「真実」を追い求める「はず」の人物だったことも、「秘密を隠すかどうか」で葛藤する物語に結びついています。152分という長尺を一気に見せきる力作です。
●『ナミビアの砂漠』監督:山中瑶子
2024年公開の『ナミビアの砂漠』は、何にも情熱を持てない21歳の美容脱毛サロンのスタッフ「カナ」を主人公にしたドラマで、カナが冒頭で久しぶりに友達に会ったシーンから、彼女が「表向きは気を使うこともあるけど、本質的には自分本位かつ不遜」人物であることが伝わります。
初めこそ「どうしたの?なんか元気ないじゃん」と友達に声をかけるものの、ショッキングなことを聞かされた直後、運ばれたアイスコーヒーについて「うわぁ、紙ストロー」と声に出す場面は印象的です。
その後、寛一郎さん演じる穏やかで優しい「ホンダ」と、金子大地さん演じる自信家の「ハヤシ」というふたりの男性の間を行き来しているカナは、表面的には適当かつ不誠実な人間に見えます。「あ、そう、じゃあそれでいいよ」といったセリフや、「ははっ」という失笑からは、「諦め」のような悲しさもまとっていました。
しかし、終盤で「笑い泣き」をしながら「変な人」と言ったり、強い意志で「おい、なんか言え」と口にしたりする様は、どうしても嫌いになれません。
河合さんは山中監督のデビュー作『あみこ』を高校3年時に映画館で観て衝撃を受け、「私はこれから女優になるのでいつか監督の作品に出してください」という手紙を渡していたそうです。その「有言実行」のエピソードにも、迫力を感じさせます。
●『悪い夏』原作:染井為人/監督:城定秀夫
2025年春に話題を呼んだ『悪い夏』は、市役所の生活福祉課に勤める「佐々木守(演:北村匠海)」が、シングルマザー「林野愛美(演:河合優実)」の家を訪れたことをきっかけに騒動が巻き起こるサスペンスドラマです。
愛美がファミレスで友達の「梨華(演:箭内夢菜)」から「娘をどうしているの」と聞かれたときの「家でひとりで遊んでる」というセリフや、「幼稚園に通わせないの?」という質問への「空きない。金もないし」といった言動からも、彼女が育児放棄寸前であり、無気力そのものであることが伝わる河合さんの演技は今回もみごとです。
しかし、主人公の守との交流で、徐々に愛美に現状のすさんだ生活の改善と、娘に向き合おうとする意志が見えてきます。その先での「だったら助けてよ」という場面の切実な表情や、とある「サプライズ」の場面での嬉しさを隠せない顔が忘れられません。
河合さんは特に、「眼差し」が印象的な俳優です。眼差しの鋭さで感情の攻撃性を表現する一方で、その目を大きく見開いたり、くったくない笑顔を浮かべたりすることで、キャラクターにさらなる深みを与えることもできるのでしょう。
『悪い夏』のキャッチコピーには「クズとワルしか出てこない」とありますが、守は良い人「だった」こともありますし、困窮し続け、とある顛末を迎える母親「古川佳澄(演:木南晴夏)」姿も胸を締め付けます。
一方で、作中最大の悪役「金本龍也」を演じた窪田正孝さんの超楽しそうな「サイコ演技」もインパクト抜群で、クライマックスは思わず笑ってしまうブラックコメディーのようでした。露悪的かつダークな作風ではありますが、実際は生活保護への問題提起も真摯で、見ごたえがあります。
(ヒナタカ)
