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爆笑誘った『ばけばけ』父親の「落武者」化 史実に比べれば「だいぶ救われる」ワケ

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第9回の放送で、「落武者」がXのトレンド入りを果たすほど話題になりました。主人公「松野トキ」の父親の奮闘が話題をさらった放送回でしたが、この父親に関する史実は、ドラマよりもっと「うらめしい」ものでした。

娘の幸せを願っての「真剣な行動(笑)」

『ばけばけ』第9回で「落武者」となって笑いを誘った、司之介役の岡部たかしさん
『ばけばけ』第9回で「落武者」となって笑いを誘った、司之介役の岡部たかしさん

 文学者・小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)と、彼を支えた妻の小泉セツをモデルにしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第9回放送では、働き手を増やして困窮から脱するために主人公「松野トキ(演:高石あかり)」のお見合い作戦に奮闘する様子が描かれました。

 最初のお見合い相手は、明治の世になっても武士でいることにこだわるトキの父・司之介(演:岡部たかし)と祖父・勘右衛門(演:小日向文世)のせいで破談に。縁談を断られて落ち込んでもなお、家族みんなで幸せになりたいと、嫁入りではなく「婿取り」を希望するトキの姿を見た父・司之介は、次の縁談に向けて一大決心し、2回目のお見合い当日に「まげ」を落とした姿で現れます。

 ところが、肝心の見合い相手は「まげ」を残した姿で登場。「切るんじゃなかった」と、司之介は崩れ落ちます。周りから「辻斬りにあったのか」「申し訳ございません。うちの落武者が」と、いじられる一方、毛先を気にしてファサッと触って困惑する司之介に、多くの視聴者が大爆笑。「泣きながら笑った」「コントがすぎる」「岡部たかしは凄い役者だな」など、絶賛の声があがっています。

 劇中では、この司之介の活躍(?)もあって縁談は和やかに進みましたが、松野家のモデルとなった「稲垣家」の厳しい現実を知ると、司之介の「落武者」コントにも「大きな救いがある」と感じられてきます。

婿入りした青年も失望する「貧困生活」

 トキのモデルとされるセツが育った稲垣家は、松江藩の士族として城下に屋敷を構える家でしたが、当時の大多数の士族と同様に、明治維新によって食い扶持を失って困窮します。セツの父・金十郎は善良で気前の良い性格で、「狡猾で薄情な詐欺」の手合いにかかって残された資金を失い、先祖代々の屋敷も明け渡して貧困生活に転がり落ちます。

 一家没落の経緯はドラマでも描かれていますが、司之介が牛乳配達の仕事を続け、娘トキの幸せを願って奮闘するのに対し、史実における父・金十郎は時代の変化についていけず、何ら為すところがなく、一家の生計はセツが外で働いて得た稼ぎと母・トミの内職で支えていました。やがて因幡の元士族の息子を婿に迎え、セツと夫婦になりますが、稲垣家の惨状に失望した彼は、1年と経たずに姿を消してしまいます。

 もし、史実に沿ってドラマの物語が展開していくと考えると、トキの「二度目の縁談」の先には、さらなる困難が待ち構えているかもしれません。本来なら辛く、うらめしい出来事が続く物語になるはずですが、ドラマ『ばけばけ』には、岡部たかしさん演じる「落武者」が象徴するように、見る者が「大いに救われる」要素が今後もたくさんあることを期待させてくれます。

(マグミクス編集部)

※参考文献:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)

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