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半世紀前の奇妙な特撮。『ゴリ』から『スペクトルマン』へ、放送中にタイトルが変更…?

第2次怪獣ブームは1971年からとされ、今年2021年で50年を迎えます。当時その先陣を切ったとされる特撮が『宇宙猿人ゴリ』です。しかしコレ、番組タイトルが2度変更されるという、異例の人気作でもありました。

子どもには衝撃すぎたオープニング、ヒーローが“金髪猿人”

『宇宙猿人ゴリ』はピー・プロダクション初の単独企画・制作した特撮番組。画像は「宇宙猿人ゴリなのだ」レコード(UNION)
『宇宙猿人ゴリ』はピー・プロダクション初の単独企画・制作した特撮番組。画像は「宇宙猿人ゴリなのだ」レコード(UNION)

 第2次怪獣ブームは、1971~1973年といわれていますが、その先陣を切ったのが『宇宙猿人ゴリ』(フジテレビ)でした。初回は71年の1月2日19時、なんと正月のゴールデンタイムでした。新番組でも当時は情報が少なく、「ゴリ」が悪を倒すヒーローだと思ってチャンネルを合わせたチビっ子が多かったようです。が、その多くはドンデン返しを受けます。

 番組のオープニング(OP)はダークなBGMが流れる怪しい雰囲気。UFOが飛来し金髪ゴリラが登場、怪獣を操ります。タイトル『宇宙猿人ゴリ』が出て、同時にBGMがチェンジ、一転アップテンポになり、「♪スペークトルマーン」という歌声も。

 続いて、カッコいいヒーローが登場し怪獣と戦います。実はこの作品、急仕上げだったためOPには何のテロップも入っていませんでした。……こんなOPに、子どもは「ゴリは悪者? スペクトルマンって何?」と混乱状態だったとか。

●ゴリが地球を狙ったのは、地球を汚す人間への怒り

 とにかく一番の疑問は、なぜ番組の冠を「悪者」に託したのかです。原作者のうしおそうじ氏が、「怪人二十面相のように敵にスポットを当てたかった」という話もありますが、この意外性が功を奏したのか、人気は上昇し、裏番組『巨人の星』の視聴率を上回るようになります。

 ゴリを主役に据えた理由のひとつは、当時の社会問題「公害」をテーマにしたことです。ゴリは惑星Eの天才科学者で、星の独占計画がバレて追放され地球へ辿り着きます。ゴリは、Eで使用禁止の有害物質が地球で使われていることに憤慨。有害物質を原料に造った怪獣で地球侵略を企てます。つまり地球目線でいえば、ゴリは人間の愚行から救うヒーローなのです。

●スペクトルマンは怪獣に負けたことも

 ゴリから人間を守るのがスペクトルマンです。司令衛星ネヴュラ71からゴリ追跡を命じられたサイボーグが、地球では人間の姿で蒲生譲二(がもうじょうじ)と名乗ります。スペクトルマンに変身して怪獣を倒して地球を防衛しますが、時に怪獣に負ける演出もあり、これは主役のゴリを立てたから? とも考えられます。

●タイトル変更の背景に「クレーム」?

 そんな時、汚水を流す工場の映像にスポンサーの工場が使われるトラブルもあったとかで、テーマの「公害」はイメージが悪いとクレームがつくように。そして第21話からタイトルが『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』へ変更となり、公害のテーマは薄れていきます。

 もはやゴリの存在も微妙になり、第40話からタイトル『スペクトルマン』に変更されます。10か月で主役が悪から善へと変わってしまいました。内容も、人間等身の宇宙人と戦うケースが増えていきます。

 これは、4月からスタートしていた『仮面ライダー』人気を意識して新展開を目論んだとされますが、蒲生譲二の孤独感や人生観を描くように物語を変えたのが子どもには難しかったようで、人気は下降。1972年3月で終了となります。スタート当初の“ゴリと公害”から道を外れたために、『スペクトルマン』は迷走し、ゴールが見えなくなってリタイヤするように終わったのでした。

 その後、同作品は全国で再放送されますが、タイトルは『スペクトルマン』で統一されます。最初は看板を張った怪獣ブームの先駆者『宇宙猿人ゴリ』は、ヒーローになりきれないまま葬り去られたのでした。

(石原久稔)

【画像】宇宙猿人ゴリとその部下、そしてスペクトルマンの独特すぎる造形…(4枚)

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