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無音を表す「シーン…」は手塚治虫が生み出した? マンガ界の「大発明」を振り返る

マンガ界には、その後の作家や作品に大きな影響を与えた、革命的な「表現」があります。ひとつの表現がさらに別の表現を生み、日本のマンガ界は多彩に進化してきたのです。今回はそんな「発明」ともいえそうな表現をご紹介します。

「シーン」を発明した神様

手塚治虫が初めて無音を「シーン」と表現した『新世界ルルー』が収録された「手塚治虫文庫全集」(講談社)
手塚治虫が初めて無音を「シーン」と表現した『新世界ルルー』が収録された「手塚治虫文庫全集」(講談社)

 今や日本文化の象徴ともいえる「マンガ」。東京2020オリンピック開会式の入場行進で、世界に向けてマンガの吹き出しが描かれたプラカードが掲げられていたのも、記憶に新しいところでしょう。日本で最も古いマンガは、平安時代末期から鎌倉時代初期に描かれた『鳥獣人物戯画』と言われていますが、それほどの昔から日本人はマンガ的な表現に親しんできたのです。

 そんな日本マンガの歴史のなかでは、その後のマンガ界の進化を加速させるような、「表現の発明」が出現することがありました。今回は、マンガ表現の分岐点となっていたような画期的表現手法をご紹介します。

●「無いもの」を表現したマンガの神様

「マンガの神様」と称される手塚治虫先生は、日本のストーリーマンガの開祖と言われ、大胆なコマ割でスピード感や時間経過の表現の幅を広げるなど、マンガ界に数々の偉業を残しています。そして、「無いもの」を表現するというコロンブスの卵的な発明もしていました。

 それは、無音を表す「シーン」という文字です。1951年から1952年にかけて「少年少女 漫画と讀物」に連載された、『新世界ルルー』という作品でのことでした。一千年後の人たちに向けた遺書を読んだ面々が、実際にはまだ20年しか経っていないことに、なんとも複雑な気持ちになって沈黙してしまう……という場面に「シーン」という文字が書かれているのです。
 
 おそらく「しんと静まりかえる」の「しん」から来ているのでしょうが、「シーン」の文字で静けさが強調されるという、画期的な表現方法でした。これについては手塚先生自身が「音ひとつしない場面に「シーン」と書くのは、じつはなにをかくそうぼくが始めたものだ」と語っており、『新世界ルルー』以降、さまざまな漫画家たちもその手法を取り入れたことがうかがえます。

 実際には聞こえない音を書くことで状況を説明するという発明は、今ではマンガ界にすっかり定着しました。ショックを受けたときの「ガーン」、恐怖を感じたときの「ゾクッ」などは、本来は存在しない音が聞こえてくる気がするほどです。荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』では、「ゴゴゴゴゴ」「ドドドドド」と、文字で緊迫感や心の動揺といったさまざまな状態を表すなど、作品になくてはならない表現となっています。

【画像】画期的なマンガ界の発明がよくわかる名作たち

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